__手段を選ばない。
 その言葉に背筋が冷たくなる。

「父上も中大兄皇子に殺されたのと同じ」

 ハッと息を呑む私に皇子は切なさそうに微笑む。

「この難波宮は父上が即位した時に造り上げた都だ。しかし中大兄皇子は飛鳥宮に(うつ)れと言い出してな。反対した父上と父上についた者達を置いて家臣の殆どを率いり去っていってしまったのだ。間人大后(はしひとのおおきさき)まで連れてだ。大后は父上ではなく兄君である中大兄皇子を選んだ。消沈した父上は様態を悪くし崩御したのだ」

 私の知らない皇子の過去。
 想像することのできない悲しみと苦しみにあったことを知る。
 大王の奥さんである后までも去ってしまったなんて、一夫多妻制だとはいえ大王が大きなショックを受けるのもおかしくない。例え中大兄皇子からしたら妹だとは言え、人の奥さんまで連れていってしまうなんて……。と、そこで違和感を覚える。
 中大兄皇子と孝徳大王の后は兄妹。そのお母さんと孝徳大王も姉弟。
 __え!それって自分の姪を后にしたってこと!?