今日はやたらと天気がいい。だから最悪だ。
赤とピンクに染めた長い前髪をかき上げて、あたしは窓の外に視線を向ける。
南向きの窓際は一日中暑くて、授業に集中できない。
五月でこれなら真夏は最悪だけど、席替えをしたばかりだから当分はこの席か。
片肘をついたまま睨むように空を見ていると、数羽の鳥が整列しながら飛んでいた。
白く霞んだ朝の空の色も好きだけど、徐々に薄くなっている群青色のグラデーションもなかなかいい色だな。
ペンケースの中にある青の色鉛筆で、ノートの隅を塗った。
やっぱアナログだと思った色にならないな。
そんなことを思いながら眉間にしわを寄せ、正面の電子黒板に視線を戻したタイミングで、四時限目終了のチャイムが鳴る。
よし、昼休みだ。腹減った。
購買でパンを買う奴や、食堂に行く奴が急いで教室を出ていく中、あたしも含め、残ったクラスメイトは教室でお弁当を食べる組だ。
一度水道で手を洗ってからまたもとの席に座ったあたしは、リュックから巾着袋とステンレスの黒い水筒を取り出した。
小学生の頃から使っている緑色の巾着袋には、薄い文字で【さくまかえで】と書かれてある。
袋には毎朝自分で握っているおにぎりが入っていて、今日は梅干しと、昨日の夕食でお母さんが焼いた鮭のふたつだ。
食べようと思ったけれど、やっぱり窓からの日差しがうざい。立ち上がったあたしは、ふたつ前の席でお弁当を食べている女子三人組に近づいた。
「あのさ、カーテン閉めてもいい?」
そう声をかけると、三人はビクッと肩を震わせ、大きく開いた目を見合わせている。
勝手に閉めるのはよくないかなと思って一応声をかけただけなんだけど、そんなに驚かなくてもいいじゃん。
「閉めていい?」
もう一度聞くと、そいつらはあたしを見ることなく頷いた。
「サンキュー」
あたしは彼女たちの邪魔にならないよう、「ごめんな」と言いながらカーテンに手を伸ばした。その間、女子三人は固まったように身動きひとつ取らない。
カーテンを閉めてから自分の席に座り、あたしはようやくおにぎりを頬張った。
けれどその直後、なんとなく視線を感じて顔を上げた。すると、さっきの女子たちが慌ててあたしから視線を逸らし、なんかコソコソ喋っている。
いや、見てたのはそっちなのにリアクションおかしいだろ。あたしと目を合わせちゃいけないルールでもあんのか。目が合ったって、別に石になんかならないよ。
なんてくだらないことを思いながらも、別に誰にどう思われようと特に気にしないあたしは、おにぎりを食べながら教室の中を見回した。
女子も男子もふたりから五人のグループに分かれて食べている奴らや、ひとりで食べている奴も数人いる。
で、あたしはもちろんひとり。
気にしたことがないからハッキリとは覚えていないけど、一年の時から多分ずっと、昼食はひとりで食べていたと思う。
絶対にひとりがいいというわけではなく、かといって、本当は誰かと一緒がいいというわけでもない。友だちの存在も同じで、欲しくないわけじゃないし、積極的に作ろうとも思わない。
そうなると過去に何かあったのかと思われがちだけれど、そんなこともまったくない。まぁ、できたらできたでいいなと思っていたけど、三年になっても仲のいい友だちと言える存在はいないままだ。
女子からは、今日みたいにちょっと話しかけただけで謎のリアクションを取られることが多いから、あたしに何かしらの原因があるのかもしれないな。
だけど、それについて悩むなんてことは、もちろんない。
おにぎりふたつをぺろりとたいらげ水筒の水を飲んだあと、リュックからスマホを取り出した。
イヤホンをつけてスマホを操作し、音楽を流す。
机に顔を伏せ、目を閉じた。
早く食べ終わったし、十五分は寝られるな……――。
赤とピンクに染めた長い前髪をかき上げて、あたしは窓の外に視線を向ける。
南向きの窓際は一日中暑くて、授業に集中できない。
五月でこれなら真夏は最悪だけど、席替えをしたばかりだから当分はこの席か。
片肘をついたまま睨むように空を見ていると、数羽の鳥が整列しながら飛んでいた。
白く霞んだ朝の空の色も好きだけど、徐々に薄くなっている群青色のグラデーションもなかなかいい色だな。
ペンケースの中にある青の色鉛筆で、ノートの隅を塗った。
やっぱアナログだと思った色にならないな。
そんなことを思いながら眉間にしわを寄せ、正面の電子黒板に視線を戻したタイミングで、四時限目終了のチャイムが鳴る。
よし、昼休みだ。腹減った。
購買でパンを買う奴や、食堂に行く奴が急いで教室を出ていく中、あたしも含め、残ったクラスメイトは教室でお弁当を食べる組だ。
一度水道で手を洗ってからまたもとの席に座ったあたしは、リュックから巾着袋とステンレスの黒い水筒を取り出した。
小学生の頃から使っている緑色の巾着袋には、薄い文字で【さくまかえで】と書かれてある。
袋には毎朝自分で握っているおにぎりが入っていて、今日は梅干しと、昨日の夕食でお母さんが焼いた鮭のふたつだ。
食べようと思ったけれど、やっぱり窓からの日差しがうざい。立ち上がったあたしは、ふたつ前の席でお弁当を食べている女子三人組に近づいた。
「あのさ、カーテン閉めてもいい?」
そう声をかけると、三人はビクッと肩を震わせ、大きく開いた目を見合わせている。
勝手に閉めるのはよくないかなと思って一応声をかけただけなんだけど、そんなに驚かなくてもいいじゃん。
「閉めていい?」
もう一度聞くと、そいつらはあたしを見ることなく頷いた。
「サンキュー」
あたしは彼女たちの邪魔にならないよう、「ごめんな」と言いながらカーテンに手を伸ばした。その間、女子三人は固まったように身動きひとつ取らない。
カーテンを閉めてから自分の席に座り、あたしはようやくおにぎりを頬張った。
けれどその直後、なんとなく視線を感じて顔を上げた。すると、さっきの女子たちが慌ててあたしから視線を逸らし、なんかコソコソ喋っている。
いや、見てたのはそっちなのにリアクションおかしいだろ。あたしと目を合わせちゃいけないルールでもあんのか。目が合ったって、別に石になんかならないよ。
なんてくだらないことを思いながらも、別に誰にどう思われようと特に気にしないあたしは、おにぎりを食べながら教室の中を見回した。
女子も男子もふたりから五人のグループに分かれて食べている奴らや、ひとりで食べている奴も数人いる。
で、あたしはもちろんひとり。
気にしたことがないからハッキリとは覚えていないけど、一年の時から多分ずっと、昼食はひとりで食べていたと思う。
絶対にひとりがいいというわけではなく、かといって、本当は誰かと一緒がいいというわけでもない。友だちの存在も同じで、欲しくないわけじゃないし、積極的に作ろうとも思わない。
そうなると過去に何かあったのかと思われがちだけれど、そんなこともまったくない。まぁ、できたらできたでいいなと思っていたけど、三年になっても仲のいい友だちと言える存在はいないままだ。
女子からは、今日みたいにちょっと話しかけただけで謎のリアクションを取られることが多いから、あたしに何かしらの原因があるのかもしれないな。
だけど、それについて悩むなんてことは、もちろんない。
おにぎりふたつをぺろりとたいらげ水筒の水を飲んだあと、リュックからスマホを取り出した。
イヤホンをつけてスマホを操作し、音楽を流す。
机に顔を伏せ、目を閉じた。
早く食べ終わったし、十五分は寝られるな……――。