めちゃくちゃ大人しいというわけではないけど、目立たないタイプ。もちろん、運動も苦手だ。

中学校でも同じように〝目立たない子〟として認識されていた。でも勉強が難しくなって、自分から動かなければならないことが増えるにつれ、他の問題も出てきた。

それは、みんなより一歩行動が遅いということ。面談などでもよく先生に指摘されていた。

先生は『ちょっとゆっくりだけど、丁寧なのはいいことです』と言ってくれたけれど、お母さんは、そんな私が心配でしかたないのだと思う。

結局中学の面談では最後まで、『行動がのんびり』だと指摘されて終わってしまった。

だから高校生になった今も、お母さんは私のやることすべてに口を出してくる。いいふうに言えば、助言をしてくれるのだ。

お母さんを悩ませてしまうのは私に問題があるからで、お姉ちゃんみたいにできないから、つい声をかけてしまうんだと思う。

私を心配してくれているのは分かるけれど、そういうお母さんの言動が、最近は少しつらいと感じているのも事実だ。

母の口癖は『大丈夫?』で、それを毎日言われるのもしんどい。

テスト前や行事の時、普通の学校生活でも、大丈夫かどうかなんてやってみないと分からないのに、言われるたびに少しだけ息苦しくなる。

ベッドに横になりながらイヤホンをつけて、動画を再生した。

新人歌い手、AME(あめ)の声が耳に流れてくる。

私はAMEの歌声が好きだ。

バラードの時は静かに流れる川のように()んだ声で、明るい曲の時は小鳥が歌うように楽しい気持ちにさせてくれる。激しい曲の時は正反対で、かっこよくて色気のある声や、がなり声を使い分けたりもする。

本当にひとりの人間の声なのだろうかと疑ってしまうほど、曲によって歌い方を工夫しているところも好きだ。

だからこそ、ひとつひとつ、どの曲も胸にズンと響いてくる。

中でも私が一番好きなのは、『〝(はね)』という曲だ。

自分の名前が美羽だというのもあるけれど、それだけじゃなくて、『〝羽』を聴いていると落ち着くんだ。

苦しくて沈みそうになる気持ちが、曲を聴いている時だけ、羽が生えたようにふわっと浮いてくれる。

目を(つぶ)った私は、わずかに唇を開き、AMEの曲を口ずさむ。