授業や必要な時以外、クラスメイトと喋ることはほとんどないし、そうすれば私の駄目な部分も晒されることはないから。
「ねぇ、進路調査のやつ書いた?」
「あ~、一応ね」
考えごとをしていたら、斜めうしろの席から会話が聞こえてきた。
「大学?」
「ううん、美容系の専門学校。お金かかるからさ、親に何言われるか分かんないけど」
「でもそのためにバイトもしてるんでしょ? マジ偉いよ。私は大学進学を考えてるけど、正直この成績でって 、書きながら自分にツッコミ入れたわ」
「うける。でも勉強頑張ってるじゃん」
そんなやり取りが耳に入った私は、眉を寄せて机の上をジッと見つめる。
進路に向けての何気ない会話だけれど、他の子はもう将来のこととかやりたいことを考えているんだって思ったら、酷く情けない気持ちになった。
そろそろ進路もちゃんと考えようと思うけど、考えたところで自分がしたいことなんて何も浮かばない。それよりも、こんな自分に何ができるのかということばかり考えてしまうから、結局答えは出ないままだ。
チャイムが鳴る前の騒がしい教室を見回すと、そこにいるクラスメイトの顔が、なぜかいつもよりいきいきとして見える。
なんだか、自分だけが別の場所に取り残されているような気持ちになった。
彩香や由梨は進路どうするのか、聞いてみようかな……。
一瞬そう思ったけれど、もし『美羽は?』と聞かれたら、私はきっとうまく返せない。
考えに考えたあげく、結局『分からない』と答えるのは目に見えているのだから、何も言わないほうがいい。
再び視線を下げると、担任が教室に入ってきた。
教卓の上に置かれた提出物ケースにみんなが宿題を入れはじめたので、私も宿題のプリントを持って席を立つ。
ほどなくして、チャイムが鳴った――。
「――……それから、美術の課題がまだ終わってない人は、今日の放課後美術室に行って仕上げるように専科の先生から言われてるから、忘れるなよ」
学年主任でもある担任の低い声で、私はハッとした。
そうだ、美術の課題……私、全然終わってない……。
確か彩香と由梨は終わっていたと思うけど、他に居残りをするクラスメイトはいるのかな。まさか私だけ、なんてことはないよね……。
不安に駆られながらも一時限目の授業に集中していると、十分ほど経過してからガラッと音を立てて教室のうしろのドアが開いた。
私を含め、みんなが一斉にドアに視線を向けると、赤とピンクの髪が真っ先に目に入った。その瞬間、ざわついていた教室内が一気にシーンと静まり返る。
薄手の黒いパーカーを羽織った彼女、佐久間楓は、スラックスのポケットに手を入れたまま眠そうにあくびをしてから、「はようっす」と呟いた。
多分『おはようございます』と言ったのだと思うけど、それに対して返事をするクラスメイトは誰もいない。それどころか、佐久間さんを見ながら何かコソコソと話しているクラスメイトもいる。
だけど佐久間さんは気にする様子もなく、窓際の自分の席に座った。
「金曜遅刻して来ること多くね? なんかあんのかね」
「さぁ。分かんないけど怪しいよな」
小声で話す男子の会話が、うしろから聞こえてきた。
確かに佐久間さんは三年生になってすでに三回目の遅刻だけど、それだけで怪しいなんて思われるのはちょっと可哀想だ。先生が特に何も言わないということは、ちゃんと遅刻の連絡はしているのだろうし。
そんなことを思いながら、私は佐久間さんから逸らした目線をノートに戻す。
「ねぇ、進路調査のやつ書いた?」
「あ~、一応ね」
考えごとをしていたら、斜めうしろの席から会話が聞こえてきた。
「大学?」
「ううん、美容系の専門学校。お金かかるからさ、親に何言われるか分かんないけど」
「でもそのためにバイトもしてるんでしょ? マジ偉いよ。私は大学進学を考えてるけど、正直この成績でって 、書きながら自分にツッコミ入れたわ」
「うける。でも勉強頑張ってるじゃん」
そんなやり取りが耳に入った私は、眉を寄せて机の上をジッと見つめる。
進路に向けての何気ない会話だけれど、他の子はもう将来のこととかやりたいことを考えているんだって思ったら、酷く情けない気持ちになった。
そろそろ進路もちゃんと考えようと思うけど、考えたところで自分がしたいことなんて何も浮かばない。それよりも、こんな自分に何ができるのかということばかり考えてしまうから、結局答えは出ないままだ。
チャイムが鳴る前の騒がしい教室を見回すと、そこにいるクラスメイトの顔が、なぜかいつもよりいきいきとして見える。
なんだか、自分だけが別の場所に取り残されているような気持ちになった。
彩香や由梨は進路どうするのか、聞いてみようかな……。
一瞬そう思ったけれど、もし『美羽は?』と聞かれたら、私はきっとうまく返せない。
考えに考えたあげく、結局『分からない』と答えるのは目に見えているのだから、何も言わないほうがいい。
再び視線を下げると、担任が教室に入ってきた。
教卓の上に置かれた提出物ケースにみんなが宿題を入れはじめたので、私も宿題のプリントを持って席を立つ。
ほどなくして、チャイムが鳴った――。
「――……それから、美術の課題がまだ終わってない人は、今日の放課後美術室に行って仕上げるように専科の先生から言われてるから、忘れるなよ」
学年主任でもある担任の低い声で、私はハッとした。
そうだ、美術の課題……私、全然終わってない……。
確か彩香と由梨は終わっていたと思うけど、他に居残りをするクラスメイトはいるのかな。まさか私だけ、なんてことはないよね……。
不安に駆られながらも一時限目の授業に集中していると、十分ほど経過してからガラッと音を立てて教室のうしろのドアが開いた。
私を含め、みんなが一斉にドアに視線を向けると、赤とピンクの髪が真っ先に目に入った。その瞬間、ざわついていた教室内が一気にシーンと静まり返る。
薄手の黒いパーカーを羽織った彼女、佐久間楓は、スラックスのポケットに手を入れたまま眠そうにあくびをしてから、「はようっす」と呟いた。
多分『おはようございます』と言ったのだと思うけど、それに対して返事をするクラスメイトは誰もいない。それどころか、佐久間さんを見ながら何かコソコソと話しているクラスメイトもいる。
だけど佐久間さんは気にする様子もなく、窓際の自分の席に座った。
「金曜遅刻して来ること多くね? なんかあんのかね」
「さぁ。分かんないけど怪しいよな」
小声で話す男子の会話が、うしろから聞こえてきた。
確かに佐久間さんは三年生になってすでに三回目の遅刻だけど、それだけで怪しいなんて思われるのはちょっと可哀想だ。先生が特に何も言わないということは、ちゃんと遅刻の連絡はしているのだろうし。
そんなことを思いながら、私は佐久間さんから逸らした目線をノートに戻す。