「……AMEじゃん」

思わず小声で呟いてしまった。

AMEは、最近動画配信をはじめた新人歌い手だ。

あたしがAMEの歌を聞いたのは本当にたまたまだったけど、一曲聞いただけですぐに好きになった。

歌声はもちろんだけど、特にAMEの書く歌詞があたしは好きだ。それと、歌にのせて流れるイラストも。

あたしが得意とするリアル調とは違って、線がハッキリしていてちょっとアメコミっぽい感じがかっこいい。誰が描いているのか分からないけど、勉強になる。

動画には曲に合わせたイラストだけが流れるため、AME本人の姿は一切なく、もちろん顔も年齢も不明。歌声から恐らく女だということ以外は何も分からない。

でも顔出ししていない歌い手なんて山ほどいるし、性別とか顔とかそんなことはどうだっていい。あたしがAMEの動画に元気をもらっているということは、確かなんだから。

つーか、早坂もAMEが好きなのかな。歌詞をわざわざ書くくらいだから、好きなんだろうな。

メモ帳を再びポケットにしまって窓の外を見ながら、思った。

まだ新人だからか、再生回数も登録者数もそんなに多くはないのに、同じ学校の中で同じようにAMEを推している奴がいるなんて、ちょっと意外だ。なんせ音楽好きのバンド同好会の三人も知らなかったわけだし。

だけどAMEはきっと、これからとんでもなく人気になるだろうと私はふんでいる。ただの勘だけど。

そんな新人歌い手に目をつけているのがあたしだけじゃなかったっていうのは、ちょっと嬉しいかも。

早坂か。あいつ、結構センスいいじゃん。

耳に流れてくるAMEの曲を聴きながら、あたしは少しだけ口角を上げた。