*
「今日もマジで助かった。サンキュー佐久間」
長身で髪を赤茶色に染めている西山が、自販機から出てきた缶を投げてきたので、あたしはそれをキャッチした。
「おい、アホか! 炭酸投げんなよ!」
そう言いながら受け取った缶を開けると、プシュッと音は鳴ったものの、噴き出してこなかったのでホッとした。
「やっぱ暑い時は炭酸に限るわ~」
ジュースをひと口飲んだあたしは、満足げに微笑む。
「ジュース一本で手伝ってくれる奴なんて、佐久間くらいだよな」
「ほんと、佐久間だからできることだよな」
中嶋と本橋が目を合わせながら言った。
どういう意味かよく分からないけど、楽器運ぶのを手伝っただけでジュース奢ってもらえるんだったら、やるだろ。
西山と中嶋と本橋。この三人は軽音部だったのだが、半年前にボーカルが辞めてしまい、今年度になってから廃部。しかたなくバンド同好会として活動しているけど、練習の場である音楽室は大会で好成績を残している吹奏楽部に乗っ取られているようだ。
音楽室で練習できるのは吹奏楽部が休みの水曜だけで、他の曜日に練習をする時は第二校舎から第三校舎の空き教室まで楽器を運んで演奏している。
一ヶ月前、階段を往復しながらドラムを運んでいる西山をたまたま見かけた私は、声をかけて運ぶのを手伝った。そしたらお礼にジュースをくれたので、今も時間が合えば時々手伝っている。
もちろん、ジュースを奢ってもらうためだ。見返りがなきゃ、楽器を運ぶなんて面倒なことはしない。
こいつらは学校の中で一番よく話をする存在だけど、つき合いはそのくらいで、もちろん仲良しというわけじゃない。
そういえば、演奏を聞いて率直な感想を述べることもたまにあるけど、あれは何ももらってなかったな。別料金ってことで、次からは感想一回につき購買のパン一個もらうか。一回じゃさすがに高いって言われそうだから、三回で一個のほうがいいかな。
などと考えながら、あたしは空き教室の隅に置いてある椅子に座った。
「そーいや今日さ、また女子からあたしと目を合わせたら終わり選手権みたいなリアクション取られたんだよね」
「なんだよその選手権」
西山の突っ込みに、「知らねぇよ。あたしが知りたいわ」と返す。
「てかあれだろ、お前、避けられてんじゃねーの?」
「え、あたしって避けられてんの?」
「え、知らなかったのか?」
あたしと西山のやり取りに、中嶋と本橋は楽器の準備をしながら笑っている。
「悪い意味で避けられてるわけじゃなくて、要するに自分たちと違うからちょっと怖いってのもあるし、近寄りがたいってことじゃね?」
「近寄りがたいってなんだよ。あたしはいたって普通に、真面目に授業受けてるだけだし」
なんせ話さないんだから、怖がられるようなことだって何もしていない。まぁ、たとえ避けられていたとしても悩むなんて時間の無駄だから、どうでもいいけど。
結局そういう結論に達したあたしは、それ以上考えるのをやめてリュックからタブレットを取り出した。バイトまでの時間、バンドの演奏をBGMに、これで時間を潰すためだ。
演奏がはじまると、あたしはタブレットで動画投稿アプリを開いた。昨日の夜アップした自分のイラスト制作動画を見て、再生回数の少なさにため息をつく。
クラスメイトや女子たちから避けられたとしてもなんとも思わないけど、これはさすがに頭を抱えてしまう。
あたしが描きたいのはリアル調の女の子のイラストで、加えて常識に囚われないカラフルな色使いが好きだ。
肌の色ひとつとっても、光や影の入れ方によってたくさんの色を使う。女の子の髪型をカラフルな花そのもので表現したり、涙をあえてピンク色にしたり。そういう自由な絵が好きなのだけど……。
そうやって好きに楽しく描いたイラストに限って、動画の再生回数やいいねが少ない。逆に、人気アニメのキャラだったり、ラノベっぽさがある可愛いイラストだと再生回数も伸びる。
可愛い絵も好きだし、そういうのがうまい絵師さんは尊敬する。でもなぁ……――。
こんなんじゃ駄目だ。あたしが投稿している動画サイトで収益を得られるのは十八歳からで、あと三ヶ月しかない。それまでにもっと登録者数を増やさなきゃ、稼げないじゃん。
もう一度、今度は「くそっ!」と、思いきり声を上げてからため息をついた。
たまたま演奏を止めていた三人がこちらに視線を送るが、あたしの機嫌が悪いのを察したのか、すぐに目を逸らして見ない振りをした。
「今日もマジで助かった。サンキュー佐久間」
長身で髪を赤茶色に染めている西山が、自販機から出てきた缶を投げてきたので、あたしはそれをキャッチした。
「おい、アホか! 炭酸投げんなよ!」
そう言いながら受け取った缶を開けると、プシュッと音は鳴ったものの、噴き出してこなかったのでホッとした。
「やっぱ暑い時は炭酸に限るわ~」
ジュースをひと口飲んだあたしは、満足げに微笑む。
「ジュース一本で手伝ってくれる奴なんて、佐久間くらいだよな」
「ほんと、佐久間だからできることだよな」
中嶋と本橋が目を合わせながら言った。
どういう意味かよく分からないけど、楽器運ぶのを手伝っただけでジュース奢ってもらえるんだったら、やるだろ。
西山と中嶋と本橋。この三人は軽音部だったのだが、半年前にボーカルが辞めてしまい、今年度になってから廃部。しかたなくバンド同好会として活動しているけど、練習の場である音楽室は大会で好成績を残している吹奏楽部に乗っ取られているようだ。
音楽室で練習できるのは吹奏楽部が休みの水曜だけで、他の曜日に練習をする時は第二校舎から第三校舎の空き教室まで楽器を運んで演奏している。
一ヶ月前、階段を往復しながらドラムを運んでいる西山をたまたま見かけた私は、声をかけて運ぶのを手伝った。そしたらお礼にジュースをくれたので、今も時間が合えば時々手伝っている。
もちろん、ジュースを奢ってもらうためだ。見返りがなきゃ、楽器を運ぶなんて面倒なことはしない。
こいつらは学校の中で一番よく話をする存在だけど、つき合いはそのくらいで、もちろん仲良しというわけじゃない。
そういえば、演奏を聞いて率直な感想を述べることもたまにあるけど、あれは何ももらってなかったな。別料金ってことで、次からは感想一回につき購買のパン一個もらうか。一回じゃさすがに高いって言われそうだから、三回で一個のほうがいいかな。
などと考えながら、あたしは空き教室の隅に置いてある椅子に座った。
「そーいや今日さ、また女子からあたしと目を合わせたら終わり選手権みたいなリアクション取られたんだよね」
「なんだよその選手権」
西山の突っ込みに、「知らねぇよ。あたしが知りたいわ」と返す。
「てかあれだろ、お前、避けられてんじゃねーの?」
「え、あたしって避けられてんの?」
「え、知らなかったのか?」
あたしと西山のやり取りに、中嶋と本橋は楽器の準備をしながら笑っている。
「悪い意味で避けられてるわけじゃなくて、要するに自分たちと違うからちょっと怖いってのもあるし、近寄りがたいってことじゃね?」
「近寄りがたいってなんだよ。あたしはいたって普通に、真面目に授業受けてるだけだし」
なんせ話さないんだから、怖がられるようなことだって何もしていない。まぁ、たとえ避けられていたとしても悩むなんて時間の無駄だから、どうでもいいけど。
結局そういう結論に達したあたしは、それ以上考えるのをやめてリュックからタブレットを取り出した。バイトまでの時間、バンドの演奏をBGMに、これで時間を潰すためだ。
演奏がはじまると、あたしはタブレットで動画投稿アプリを開いた。昨日の夜アップした自分のイラスト制作動画を見て、再生回数の少なさにため息をつく。
クラスメイトや女子たちから避けられたとしてもなんとも思わないけど、これはさすがに頭を抱えてしまう。
あたしが描きたいのはリアル調の女の子のイラストで、加えて常識に囚われないカラフルな色使いが好きだ。
肌の色ひとつとっても、光や影の入れ方によってたくさんの色を使う。女の子の髪型をカラフルな花そのもので表現したり、涙をあえてピンク色にしたり。そういう自由な絵が好きなのだけど……。
そうやって好きに楽しく描いたイラストに限って、動画の再生回数やいいねが少ない。逆に、人気アニメのキャラだったり、ラノベっぽさがある可愛いイラストだと再生回数も伸びる。
可愛い絵も好きだし、そういうのがうまい絵師さんは尊敬する。でもなぁ……――。
こんなんじゃ駄目だ。あたしが投稿している動画サイトで収益を得られるのは十八歳からで、あと三ヶ月しかない。それまでにもっと登録者数を増やさなきゃ、稼げないじゃん。
もう一度、今度は「くそっ!」と、思いきり声を上げてからため息をついた。
たまたま演奏を止めていた三人がこちらに視線を送るが、あたしの機嫌が悪いのを察したのか、すぐに目を逸らして見ない振りをした。