なぜだか伊月の様子がおかしい。武蔵小杉で将也の父親に会ってからずっと何を話しかけても素っ気ないし、一人のときは何かを恐れているような表情をしている。大切な友達だから何か困ってる事があるなら遠慮せず話して欲しいのだが、変に探ったところで嫌がられるだけの可能性もあるので何もできないでいる。ただ、変わらないやつというのはいるもので。
 「おっはよーございます!いc」 
 「次その絡みしたら張っ倒すからな」
 「すみませんでした…」
 「わかればよろしい、と言いたい所だがお前は何度この件を繰り返せば気が済むんだ?」
 「何度でも」
 「はぁ、式●さん並みのかまちょ」
 「歩夢のクラスの?」
 「ちーがーうー!アニメの方の式●さん!うちのクラスの知らん!これじゃあ将也が和●だとして俺が式●さんじゃねえかぁぁ!」
 「じゃあ犬●と猫●と八●とかは?」
 「もう式●さんの話はいいよ!」
 「あ、そうそう。松川ちゃんって相変わらず?」
 「そうそう、じゃないのよ。急すぎない?まぁそうなんだけどさ、何か不機嫌になるようなことしたのかぁ?」
 「俺に聞くなよぉー知るわけねぇだろー」
 「いや、まあ、そうなんだけどさ…」
 「そりゃ奥さんがあんな様子じゃ心配するよね!」
 「そうそう…って伊月は奥さんじゃなーい!」
 「は?もうあんなの奥さんみたいなもんだろ」
 「あのなぁ、俺らの年齢じゃそもそも結婚できないんだよ、わかりましたか?く・り・は・し・く・ん?」
 「いや、そう問題じゃ…まぁいいか」
 将也は何か言いたそうだったが、スルーすることにした。一緒にいて楽しいというのはあるのだが、面倒くさいことが多々あるのが玉に瑕だ。
 「ねぇ、歩夢」
 「どした、伊月」
 「ちょっと、来て」
 ボーっとしていると、伊月が話しかけてきた。何か今の状況について話してくれるかもしれない。
 「明日、朝早く霞ヶ関に行こう」
 「霞ヶ関?埼玉の?」
 「それ東武の方じゃん…こんな時にボケないでよ。私達が行こうとしてるのは、東京の霞ヶ関だよ!」
 「あ、そっち?でも何でいくの?」
 「いいから、それとももう予定が入ってる?」
 「いや、何もないけど」
 「じゃあ来て」
 「どうやって行くの?」
 「国府津から、東海道線で恵比寿まで行って、そこからは日比谷線で行く」
 「わかった」
 「あと、七時五十八分恵比寿発北千住行きに乗るので」
 「りょーかいです」
 なんでそんな朝ラッシュの時間帯を狙っていくのかは分からないがとりあえず伊月に嫌われていないようなので一安心。うん?というか俺は伊月に嫌われたくないとそんなに強く思っていたのか、俺って…伊月のことが…好き?いまいちピンと来ないけど、自然と伊月を目線で追っていたり、ずっと一緒に居たいと思っているあたり、伊月の事が好きという認識で間違いないのだろう。そう考えるとなんだか落ち着かず、その日は伊月の顔を直視できなかった。まぁめちゃくちゃ可愛いし、ショートカットの髪も俺の好みでもあり似合っているし、趣味も合う。完璧じゃねえか。一回寝ると自律神経が安定するとどこかで聞いたことがあったので、帰ってからは、明日の準備をしてそのまま寝た。