「やぁ、歩夢。朝から暑いねー」
 「ほんとそれな、まだ6月だっつーのに」
 俺達は今日、京急蒲田に向かうため、東海道線で横浜に向かっている途中だ。まぁどうして混んでいるはずの車内でこうして話ができているかと言うと、グリーン車を使っているのだ。片道750円なのでそれなりの負担であるがこうしてゆっくり話せているので全然OK。
 横浜まで行ったら京急に乗り換える。乗るのは、快特、印旛日本医大行き。途中20駅ほどあるのだが京急川崎にしか止まらないので相当早いことが分かる。ちなみに神奈川新町の高速通過はなかなか見ものだ。
 ゆっくり話せる、とは言えどなんだかこれだけ距離が近いと緊張してしまってうまくはなせない。そんな感じなので俺は東武のとうきょうスカイツリー駅10両対応工事による都営浅草線乗り入れがあるのかないのかについて考えることにした。ただ、それをやろうと思うと三線軌条化工事などなど面倒な初期の工事があるので多分無いだろうなと思っていた。
 そういえば、昨日のクレイジーな旅を追いかける番組で転生について触れていたがそんなもの実際にあるのだろうか、俺は正直そういうオカルトチックなことは信じないたちなのでなんとも言えないがなかなか面白かった。転生には、悲劇の死をとげた人が多いという。そして前世の記憶が残るそうだ、ただし8歳ぐらいから薄れていくという。まぁつまり何が言いたいかというと、仮に俺が転生していたとしても記憶がないから分かりようがないということだ。そんなこんなで考え事をしているとあっという間に横浜に到着した。
 ここから京急に乗り換える。乗るのは、快特、印旛日本医大行き。京急蒲田までは12分なのでそこそこ速く感じる。とは言え、近くのJRの蒲田駅までは京浜東北線で18分ほどなのでそこまで変わらないように見えるかもしれないが、鉄道の6分はかなり変わるもので1分の短縮も難しいのだ。ただ、伊月と距離が近いのは緊張はするが、とても心地がいい。やはり、心地のいい時間というのは進みが早い模様で、体感だと5分ぐらいに感じた。
 「いやー、速かったなぁ」
 「そうだね、JRが勝てない理由がわかったよ」
 「それな!最高速度が同じでもカーブでスピード出せるもんな、さすが標準軌(ひょうじゅんき)
 目的の中華料理屋は徒歩10分ほどのところにあり、なかなかいい感じのお店だった。
 東海道線沿線民なら横浜中華街でいいじゃーんって思う人もいると思うが、行きやすいが故、他のところの中華も食べてみたいの思っているのが現実なのだ。あと中華街なら神戸の中華街も行ってみたい。
 俺と伊月はその店で羽根付き餃子を食べた。そもそも羽根付き餃子が評判の店だったので味は間違いなかったが、それにしても美味しかった。
 食べ終わったのでもう帰っても良いのだがせっかくなのでどこかに行くことにした。
 「じゃあ行きますか、池袋」
 「行こう!ゴートゥーアニメエト!」
 伊月に行こうと言われたので行くことにした。今から行くのは池袋にあるアニメショップだ。その店は他にも色々なところにあるのだが、池袋は本店で9階建てになってる。アニメグッズのガチャコーナーや、原作のマンガやラノベ。キーホルダーやアクリルスタンドなどのアニメグッズ諸々が置いてあるコーナー(人気アニメだとめちゃくちゃコーナーが広いこともある)などがある。
 俺のお目当ては、勉強だけできる主人公が転校してきた五つ子の家庭教師をしているうちに五つ子(五女を除く)をオトしてなんやかんやある。という内容のラブコメ作品だ、ちなみに俺の推しは長女の子。今年映画が公開された。
 伊月のお目当ては、不幸体質の男の子のイケメン彼女とその男の子の日々を描いたお話である。この作品は原作を全て読んだ。この作品での推しは、バレー部のエースで周りにギャラリーができるほどの人気者の子。ちなみにイケメン彼女の子のショートカット姿は俺のお目当ての作品の推しに激似である。
 「はぁ、なんなの歩夢。あの混雑」
 「そうなるよな、東京ドームでイベントがあった日並の混雑だったからな」
 池袋に着くなり伊月が文句を言ってきた。伊月は満員電車が嫌いなのでそうなるだろう。それにしても、パンデミックのせいで大減便したとは言え、西側では混雑がすごい。そのせいでホームドアの安全確認や混みすぎて遅延など、問題が頻発している。
 「山手線はひどかったけど、やっぱりアニメエトの近さは完璧だね」
 「そうだな、京都のアニメエトも駅から近いけどあそこあるのが7階とかだからな」
 そこについたら5階まで上がる。俺たちのお目当ての作品のグッズは両方5階にあるので2人で上がれる。
 今はバレーの作品が人気でこのフロアの大半を占めている。やはり本店の広さは格別だ。他のところだとテナント式になっているので、この五階の広さの中にすべてを収めるような形なのだ。広いとはいえど、お目当ての作品が置いてある所は一か所しかないので俺たちにはあまり関係ないが。そんなことを考えながら俺はそのコーナーに来ていた。
 やっぱ推ししか勝たん。かわいい。好き。あと声優がいい。俺は迷いなくそのキーホルダーを手に取り、レジへと向かっていた。すぐに会計を済ませ伊月のところへ向かっている途中、いつものフラグ回収タイムだ。
 「お!歩夢じゃん、元気にしてたか?」
 「久しぶりだな成希(なるき)。元気だったよ、そっちも元気そうでよかったな」
 声をかけてきたのは永田町在住の友人である水島(みずしま)成希だ。小学校から中二までクラスがずっと同じで仲が良かったのだが、三年になるタイミングで成希が引っ越してしまい中三の夏にあって以来一度も会っていなかった。
 「ありがとな、それで歩夢は何がお目当てで?」
 「これっすよ」
 「あー、はいはい今年映画公開されたやつね」
 「そうなんだよー、見に行けてないけど。で、成希は?」
 「俺?俺はあれだな」
 成希が指を指した先には鬼狩りのアニメのコーナーがあった。6年前にアニメの一期が放送され、その時大いに話題になったのだが、その後も続編映画が公開され、来年の夏に完結するらしい。
 「やっぱ王道好きだよなぁ成希は、来年の夏の映画終わったらグッズ止まるだろうけど」
 「それ言わないで!認めたくない現実が・・・」
 「じゃあ他のお気に入り作品見つけたら?例えば…思いつかないや」
 「しっかりてくれよー、ん?あれは?」
 成希が指を指したのは、超塩対応ヒロインが主人公の男の子にのみ甘々の対応をしていて、そしてなんやかんやあって…という作品だ。ヒロインがめちゃくちゃ可愛いので俺は読んでいた。作画の良さは君●冥土様並。
 「お、イイの見つけたな。でも激甘系だから気をつけろよー」
 「おう!それじゃ、次はどこ行く?」
 「すまん成希、今日一人で来てるわけじゃないんだ」
 「なんだと!彼女か!?」
 「違う違う、まあ女子ではあるがな」
 「それデート?」
 「そういう雰囲気ではないかな」
 「ちぇー、つまんねーの」
 「つまんなくて悪かったね」
 「まあいいや、じゃーな」
 「うん、またね」
 平静をよそってはいたが、心臓バクバクだった。なぜ成希はああいった質問が好きなのか。まあ学生からしたら恋バナは偉大な娯楽の一種だが、責められる側だと面白さがゼロになってしまう。当たり前だがそこが残念だ。
 「あ、おーい歩夢。遅いよ」
 「ゴメン伊月、こっちの方の友達とバッタリ会っちゃって、それで話し込んじゃったんだよね。」
 「そういうことか、なら良かったよ」
 「ご心配どーも」
 「べつにそういうのじゃないけど…」
 それにしては何か不安そうな顔してませんでしたかね伊月さん?それはさておき、俺たちは帰ることにした。