「よっ(あゆ)()昨日はどこ行ってきたんだ?」
 「おはよー、(まさ)()。昨日は(たい)(じゅ)をとりに下今市にいったわ」
 「下今市…下今市…何か前聞いたような…ないような」
 「おまえの脳味噌はたこ焼きか!先週の金曜に栃木にあるって言っただろ」    
 「そうだったわ、すまんすまん」
 俺、(いち)(やま)歩夢と話しているのは、友人の(くり)(はし)将也、一番仲のいい友人だ。俺と同じくラノベやアニメが好き、ただ極度の方向音痴で修学旅行の時はやばかったらしい。俺はというと日本の鉄道は、ほとんど暗記していて主要駅であれば路線図を見ずともルートを答えられる。専門は関東(関東というか関東にすんでるから当たり前かもしれない)。俺の得意科目は地理、将也は英語だ。共通点として二人とも数学の成績が終わっている。愛されキャラの将也に対し、俺は鉄道オタク気味なので一部の陽キャからは疎まれている。そんな将也と一年を過ごし、二年でクラス替え。将也とは別のクラスになった、まぁ今でも仲いいけど。
 「おはよう、歩夢。元気?」
 「おはよー、()(つき)。元気だよ、心配ありがとうな」
 今声をかけてきたのは、このクラスになってから友人になった(まつ)(かわ)伊月、俺と同じく鉄道好きでよく旅をしている。髪型は、ショートカット。このように前の日の体調が悪かったりすると心配してくれるいい子。めちゃくちゃ可愛いのでクラスの奴、特に学校全体や謎に他校の女子に奴ら詳しいからは嫉妬されているがあまり気にならない。伊月とは中学生のときにTHライナーの車内で出会ったのが最初で、困ってる様子の女の子がいたので声をかけ、その子が伊月で、そこで伊月の探し物を見つけたのが始まりだ。その時俺は、越谷のばぁちゃんの家から霞ヶ関の友達の家に行くところだった。確か中三の夏休みだったろうか。
 「あの、何かお困りですか?」
 「はい、ライナー券を無くしてしまって」
 「じゃあ一緒に探しますよ。えっと、今(かや)()(ちょう)だから…あと二駅か、急ぎましょう」
 「はい」
 俺は、シートの隙間を探してみた。俺もそこになくしたことがあったのだ。
 「あ、ありましたよ」
 「本当だ…ありがとうございます」
 「いえいえ、いいですよ」
 「それ、どこにあったんですか?」
 「シートの隙間に挟まってましたよ。僕も昔そこに無くしたことがあったのでもしかしたらと思ったら本当にありました」
 「なるほど、ありがとうございます!」
 と言ったところで霞ヶ関についてしまいそこで伊月とは別れた。お礼を言った時に見せてくれた笑顔がめちゃくちゃ可愛かったのを覚えている。その後高校で再会し、同じ趣味ということも知り、下の名前で呼び合う関係にもなり週末には一緒に電車旅をすることもあって今に至る。
 「そうそう伊月、(かま)()要塞(ようさい)行くって言ったじゃん」
 「そうだね」
 「あれ今週の土曜でいい?」
 「いいよー」
 「当日に()っとけが発動しないといいけど」
 「だね」
 逝っとけというのは、京急が事故や振り替え輸送などで通常運行できなくなったときにとりあえず動かせるところまで電車を動かして行き先と違うところで運転打ち切りになったり、逆方向に行ったりする奴だ。名鉄もやってはいるのだが京急のが有名。蒲田要塞は、京急蒲田駅のこと。
 「はい、それじゃースリランカの首都を答えてくれる人は…今日日直の一山!答えられるか?」
 唐突にスリランカの首都を聞いてきたのは、地理教師の(いた)(やま)、授業始めにこんな感じで全然授業と関係ないところを聞いてくる。まぁ答えられるからいいんだけど
 「スリジャヤワルダナプラコッテ、ですよね?」
 「そうだ!さすが一山!隣のクラスの栗橋はどこ聞いてもワシントンDCって言ってくるぞ!」
 「は、はぁ」
 将也地理終わってるからなぁ、というかどこ聞いてもってことはわかってないことをわかってるのに聞いてるってことか。うん、性格終わってんな。
 「ねぇ板山先生、なんでいつも授業と関係ない質問をすんるんすか?」
 俺の後ろの(なか)(たに)が板山に聞いた。
 「知っていて損がないからだ!」
 「ほーん」
 そりゃほーん、になるわな。損がないっていう理由じゃ。その授業はいつも通り賑やかに進んでいき、休み時間になった。休み時間はいつも伊月と話している。
 「ねぇ歩夢、スリランカの首都よくわかったね」
 「まぁ地理にだけは強いからな」
 「その代わり数学が壊滅的だけどね!」
 「それを言わないで!わかってはいるけど」
 「ふふふ、それなら数学教えてあげようか?」
 「いいの?」
 「いいよー」
 「ありがと!」
 「全然いいよ、ただその代わり私に社会全般教えてね?」
 「もちろん!」
 「じゃあ今日の放課後いつものカフェで」
 「OK!」
 伊月は、地理歴史公民すべて得意では無いようでよく質問をされる。俺の数学ほど壊滅してはいないが。しかも他の教科は普通に点数がいい、普通に羨ましいというかずるいと思う。それでいて性格が良く、可愛い。天は二物を与えず、俺はこのことわざを絶対に信じない。そして放課後。
 「歩夢ー早くしないと置いてくぞー」
 「待ってー」
 そんなやりとりをしつつ、学校から五分ほど歩いたところにカフェがある。俺はいつもコーヒー、伊月はキャラメルマキアートを頼んでいる。
 「じゃあ始めますか」
 「だな」
 「今回の数学の範囲は、連立方程式が出来ないと話にならないわけなんだけど…できる?」
 「できないと思う」
 「はぁ…でもいつも通りか、基本から教えるよ」
 「お願いします伊月先生!」
 俺は伊月に連立方程式をほぼ一から教えてもらっていた。俺は何度も「え?どゆこと?」と伊月に聞き返しながらもなんとか普通の問題までは、できるようになっていた。
 「ふぅ疲れた。ちょっと休憩しようか」
 「そだね」
 二人でドリンクを飲みながらリラックスしていた。飲み物飲んでる伊月も可愛いなぁなんて思っていたら視線がずっと伊月にむいていたようだった。
 「あ、歩夢どしたの?何か私の顔についてる?」
 「ついてないついてない!」
 あぶねー、変なやつ扱いされるとこだった。
 「じゃ、じゃあ社会の勉強はじめるか」
 「うん、お願いしますね歩夢先生?」
 「おう、任せとけ」
 「世界地理なんだけど、私いっつもペルーとアルゼンチンが混ざってどっちがどっちかわかんなくなるんだよね。良い覚え方とかない?」
 「じゃあ、パンパはどっちの国にあるかわかる?」
 「えっと、アルゼンチンだよね?」
 「そう、アルゼンチンは横にも長さがあるから広大な牧草地があるわけだ」
 「それで?」
 「ペルーって縦にバカ長いじゃん?」
 「そうだね」
 「だから地理的にそんなものがあるわけないから縦に長いのはアルゼンチンじゃないって覚えてる」
 「なるほど」
 「あと、これは俺が勝手に考えたこじ付けの理由なんだけど、ペルーはもともと『ペル』っていう名前になる予定だったけど縦に長いから伸ばし棒をつけて『ペルー』っていう名前になった。っていう覚え方をしてる」
 「それ複雑だからかえって覚えにくくない?」
 「確かに複雑で分かりづらいから最初のアルゼンチンをわからせるやり方をおすすめするよ」
 「わかりずらい自覚はあるんだ」
 「まぁ一応」
 「あと、日本アルプスの順番が覚えられなくて…飛騨、赤石、木曽だっけ?」
 「いや、飛騨、木曽、赤石だよ」
 「そうだった。で、覚え方とかある?」
 「これは単純に順番を覚えるしかないよ。上から飛騨、木曽、赤石ってね」
 「そっかー」
 「こればっかりは、しょうがないんよ。ごめんね、いい覚え方がなくて。」
 「いやいや、いいよ。」
 うん、本当にいい子。将也なんて「このポンコツ野郎め!」って言ってやがった。
 「じゃあ今日はこの辺で」
 「そだね」
 俺達は横浜の高校に通っており、家は二人共()()()駅の近くにあるため行きも帰りも東海道線を使っている。乗るのは、北関東民(特に高崎線沿線の鉄オタ)がウザい行き先と言っている普通、国府津行き。俺からしたら便利でしかないけど。
 「お、今日はE233か」
 「そうだね、あでも付属編成はE231だよ」
 「どっちに乗る?」
 「LDCが付いてる方」
 「どっちもついてないぞ?」
 「あはは、知ってるよ。でも他形式は?」
 「えーと、231にLDCが付いてるのは総武線のやつだけだから…今日乗るのは、233?」
 「正解!次のE235には、LDCつくらしいね」
 「そりゃ、いい加減つけないと路線によって差が出ちゃうからな、多分235を導入するときに233にLDCつける改造するんだろ」
 そんな話をしながら車両に乗り込みそこからは、何も話さずボーっと立っているだけだ。国府津までは九駅あるので、四十五分ほどかかる。かと言ってこの混雑状態(多分混雑率150%ほど)で会話をするわけにもいかないので突っ立ていることしかできない。でも意外と早く着いてしまうのだから不思議だ。 
 「ふぅー着いた。ねぇ歩夢、あの混雑をうたた寝で乗り切った私を褒めて?」
 「いやいや、いつもあんな感じでしょ、というか立ってるのによく寝てられたな」
 「ほらほらー、凄いでしょ?褒めて褒めて?」
 「あーすごいすごい」
 「絶対そう思ってないときのやつだ」
 「そういや聞いてなかったんだけど、伊月ってスカレンジ賛成派?それとも反対派?」
 スカレンジというのは、横須賀線と総武快速線で走っているE235系1000番台のことだ。スカ色電子レンジの省略形である。電子レンジという名前の由来は、前面のデザインが電子レンジの扉に似ているからだ。ただこのの車両なかなかデザインを嫌っている鉄オタが多く、NゲージのE233をシールで改造してスカ色の233を作る人もいる。俺はスカレンジ賛成派だけど(というかE217のほうがデザインがキモイと思う)。
 「私は賛成派だよ。というか反対派の人の意見が理解できない」
 「さすが伊月、わかってるー」
 「そりゃ歩夢の友達だからね。でもなんで鉄道って食べ物関係のあだ名が多いんだろう?」
 「食パンとか世界最速のナスとか?」
 「そうそう、ナスに関しては普通に出てくると思うけど、食パンってあだ名良く思いついたよね」
 「ほんとそれな、しかも食パンってあだ名ついてるの418系だけだし」
 「そうなんだよね、鶴見線とか仙石線の205系も中間車を先頭車改造したのに」
 俺の家は、駅からすぐなのでここで伊月とはお別れだ。
 「じゃあね伊月、また明日」
 「またねー」
 俺は、帰ってからはいつもすぐに夕飯を食べ、JR東日本のアプリで列車の位置を見ている。今日は中央快速線が遅れているようだ。どうやら塩尻駅で人身事故があったらしい。
 「お、このあずさ三分遅れか。まぁ大月につく頃には何とかなるだろうけど」
 と、言ったところで伊月からメッセージが来た
 (伊月)「何か、上越新幹線止まってない?」
 とのメッセージが来たのでアプリで確認したところ、越後湯沢駅での乗客の線路内侵入と落下物対処の影響で新潟方面は高崎止まりに、東京方面は、浦佐止まりとなっている。
 (歩夢)「ほんとだ、よりによってハプニングが重なっちゃったみたいね」
 (伊月)「そうなんだよ、ということは?」
 (歩夢)「どゆこと?」
 (伊月)「上越線verのときが走るって言うことだよ」
 (歩夢)「多分この程度なら走んないよ」
 (伊月)「ちぇっ、つまんないの」
 (歩夢)「しょうがないよ。急行ときなんて今となっては一、二年に一本走るか走らないかぐらいなんだからさ」
 (伊月)「だからつまんないんだよ、快速ムーンライトえちごも走らないし」
 (歩夢)「懐かしいなそれ、六歳の時に乗ったわ」
 (伊月)「歩夢だけずるい、あーもう夏だけとかでいいから運行してくれない物なのかなぁ」
 (歩夢)「今485系がないからなぁ。走らすとしたらE257の0番台かな」
 (伊月)「185系がいいなー」 
 (歩夢)「あれじゃあモーター音で寝れないよ」
 (伊月)「じゃあE5系のブレーキ音とどっちがいい?」
 (歩夢)「極端な物で比べるなー、それにE5系のブレーキはドイツ製なんだからしょうがないだろ」
 (伊月)「とか言ってたら上越新幹線運転再開したね」
 (歩夢)「話をそらすなー!というかALFA(アルファ)-X(エックス)を元にして作る車両はブレーキ音小さそうだけどね」
 (伊月)「そうだね、また空気抵抗番をつけてるけど」
 (歩夢)「ホントだよ、FASTECH(ファステック)360の時にダメだったことが改善されてるんかね」
 (伊月)「今回は車体の上にたたむシステムだし、前回は格納スペースの問題だったから大丈夫何じゃないかな」
 (歩夢)「あれれ、伊月さんご存じない様子で」
 (伊月)「なに?」
 (歩夢)「空気抵抗版は騒音の問題があるんだよ」
 (伊月)「あ、そうなの?」
 (歩夢)「そうでしょ、だって風速300キロ近い風が板に当たるんだよ?」
 (伊月)「それもそうか…うん?」
 (歩夢)「どしたー、伊月?」
 (伊月)「今回の空気抵抗版って非常時専用じゃないの?」
 (歩夢)「そうだったわ、すまんすまん」
 (伊月)「そうだよ、重要なこと忘れないで」
 (歩夢)「はぁ、話は変わるけど新幹線版サフィール踊り子的な奴でないのかな」
 (伊月)「1~8号車グリーン車で9、10号車がグランクス。みたいな編成?」
 (歩夢)「そうそう、それをE2系でやってほしい」
 (伊月)「大改造が必要じゃん、歩夢の金でやってほしいね」
 (歩夢)「よし、JRTTから金借りてくるね」
 (伊月)「間違っても借りるなよ?」
 (歩夢)「はい、すいませんでした」
 (伊月)「まぁいいや、おやすみ歩夢」
 (歩夢)「おやすみー」
 とまぁ、こんな感じで帰ってからもメッセージアプリで話している。そして寝ようと思ったそのとき、将也から電話がかかってきた。めんどくさ、と思いつつも電話にでる
 (将也)「一山さーん!」
 (歩夢)「お前なぁ電話かける度毎回毎回『上杉さーん!』のテンポで話しかけるなって言ってるだろ!ったく何度言ったら分かるんだか」
 そう、面倒に思う理由はこれだ。将也が某ラブコメマンガ(アニメ化、劇場版公開済み)のヒロインの真似をしてくるのだ、しかも毎回毎回。
 (将也)「分かったよじゃあ、一山!起きなさいよ!」
 (歩夢)「起きてるよ、あと『上杉!起きなさいよ!』のテンポやめろ」
 (将也)「分かった分かった、じゃあ…」
 (歩夢)「ちょっと待て、おまえそれ一通りやる気か?」
 (将也)「もちろん!」
 (歩夢)「やめなさーい、あと特に用がないみたい何で切るね」
 (将也)「バイバーイ」
 まったく、マジのダルがらみだったな!