私は片道旅行に出た。
もう察してくれたかもしれないけど、帰る予定はない。
出かけたまま私を終わらせるための旅行とも呼べるか怪しい。旅行というより逃避行といったほうが的確かもしれない。
国府津から、心霊スポットとしても知られる根府川までの移動。ここが心霊スポットと言われる理由、関東大震災の甚大すぎる被害だ。ここは震源から近かったせいでホームと線路が滑り落ち、その時止まっていた車両が乗客もろとも海に転落という事故だ。
なのでここに来るダイバーはその慰霊も込めて崩れ落ちたホームがある場所まで行くのだとか。
そして周辺で心霊体験をしたとの証言があり、事故で悲劇の死を遂げた人がたくさんいることもあり(自然現象で死んじゃった人の幽霊がそこに住み着いてるっていう心霊スポットは全国にもある)心霊スポット化している。
もちろん片道分の切符しか持っていない。
早川を過ぎたあたりからいよいよだな、という実感が湧いてきた。海なら国府津にも海岸があるから行けなくはないのだけど国府津じゃあ知り合いに見つかっちゃうしね。特に歩夢には、私の無惨な姿を見せたくない。
程々に離れてて、乗り換え無しで行けて人気のない海がある場所。それが根府川まで来た理由。
真鶴PAから砂浜に降りてそのまま…ということ。
列車は根府川駅に到着した。聞いてた通りの夕日がきれいな駅だった。
(歩夢といっしょに、この夕日を見るためにここに来たかったな。)そんな叶うこともないことを思い浮かべてもしょうがないのに、心は正直だった。
歩夢に思い出せるべきじゃないこと思い出させるだけ思い出させてそのままの状態なんだ。お互い耐えられない。
歩夢は、私がいなくなったらどうなるんだろう。少しは悲しんでくれるかな。いや、ないか。
「(ほら…こっちにおいで)」
だめだな、もう幽霊の声までしてきちゃったよ。ああ、本当に終わらせてしまうんだな。という実感が湧いてきた。ねぇ歩夢、いつもみたいに助けてよ。だめか、それは高望みがすぎるね。
最後があんなのじゃね。せめて最期の台詞は歩夢に聞いてほしかったな。
じゃあね、歩夢。今までありがとう。
「伊月っ!」
「え!?歩夢?なんでここに…」
死ぬ間際の私を止めてくれたのは歩夢だった。抱きつかれてるような感じだから正直恥ずかしいけど、来てくれて嬉しいというのが正直な感想だった。
「もう2時間前から連絡がつかないから死んだりしてないかと思って来たんだよ!」
「そうなんだ、でも何でここがわかったの?」
「国府津から電車で移動できて適度に離れていて且つ海に簡単に入れるところを考えたときに思いついたのがここだったんだよ」
「そっか、」
「こんなこと聞くのもどうかとは思うけど、どうしてこうなっちゃったの?」
「その、海を見に」
「そう」
少しばかり沈黙が流れる。歩夢はもう察してくれたんだろう。こういう子が彼氏だったら良いのに。
でもいくら歩夢が優しくたって何も理由を話さいないのはかわいそうだから流石に説明することにした。
「この間、日光に行ったときに嫌なこと思い出させちゃったじゃない?」
「嫌なこと…まぁそうか」
「それなのに私は何もしてあげられなくて、そんな自分が不甲斐なくて。だから、歩夢も私のことが嫌いになっちゃたりしてないかなって心配で」
「そんなわけない!」
「おぉ…」
普段歩夢が出さないような大声で言ってくれた、今私が一番欲しかった台詞。
「俺は、伊月の身に何故来てないか心配で、伊月は大切な友達だから。死んじゃったら悲しいし、だから助けられてよかった」
私のこと、そんなふうに思っててくれたんだ。こんな人が近くにいたのに、死のうとしてしまった自分が馬鹿だ。
申し訳ない気持ちはもちろんとして、いろいろな感情が混ざり合う今の私に一つだけ伝えられることがあるとしたら、やっぱりそれは感謝だろう。
「歩夢、ありがとう」
「いいよ、伊月がちゃんと生きてくれてるし」
本当に優しいな、前からつくづく感じていること。今までこんな子に出会ったことはない。
「伊月」
愛しい人が私の名前を読んでくれる。
「なに?」
「帰ろうか」
「うん!」
帰る足取りは、来たときの何倍も軽い。歩夢、本当にありがとう。
もう察してくれたかもしれないけど、帰る予定はない。
出かけたまま私を終わらせるための旅行とも呼べるか怪しい。旅行というより逃避行といったほうが的確かもしれない。
国府津から、心霊スポットとしても知られる根府川までの移動。ここが心霊スポットと言われる理由、関東大震災の甚大すぎる被害だ。ここは震源から近かったせいでホームと線路が滑り落ち、その時止まっていた車両が乗客もろとも海に転落という事故だ。
なのでここに来るダイバーはその慰霊も込めて崩れ落ちたホームがある場所まで行くのだとか。
そして周辺で心霊体験をしたとの証言があり、事故で悲劇の死を遂げた人がたくさんいることもあり(自然現象で死んじゃった人の幽霊がそこに住み着いてるっていう心霊スポットは全国にもある)心霊スポット化している。
もちろん片道分の切符しか持っていない。
早川を過ぎたあたりからいよいよだな、という実感が湧いてきた。海なら国府津にも海岸があるから行けなくはないのだけど国府津じゃあ知り合いに見つかっちゃうしね。特に歩夢には、私の無惨な姿を見せたくない。
程々に離れてて、乗り換え無しで行けて人気のない海がある場所。それが根府川まで来た理由。
真鶴PAから砂浜に降りてそのまま…ということ。
列車は根府川駅に到着した。聞いてた通りの夕日がきれいな駅だった。
(歩夢といっしょに、この夕日を見るためにここに来たかったな。)そんな叶うこともないことを思い浮かべてもしょうがないのに、心は正直だった。
歩夢に思い出せるべきじゃないこと思い出させるだけ思い出させてそのままの状態なんだ。お互い耐えられない。
歩夢は、私がいなくなったらどうなるんだろう。少しは悲しんでくれるかな。いや、ないか。
「(ほら…こっちにおいで)」
だめだな、もう幽霊の声までしてきちゃったよ。ああ、本当に終わらせてしまうんだな。という実感が湧いてきた。ねぇ歩夢、いつもみたいに助けてよ。だめか、それは高望みがすぎるね。
最後があんなのじゃね。せめて最期の台詞は歩夢に聞いてほしかったな。
じゃあね、歩夢。今までありがとう。
「伊月っ!」
「え!?歩夢?なんでここに…」
死ぬ間際の私を止めてくれたのは歩夢だった。抱きつかれてるような感じだから正直恥ずかしいけど、来てくれて嬉しいというのが正直な感想だった。
「もう2時間前から連絡がつかないから死んだりしてないかと思って来たんだよ!」
「そうなんだ、でも何でここがわかったの?」
「国府津から電車で移動できて適度に離れていて且つ海に簡単に入れるところを考えたときに思いついたのがここだったんだよ」
「そっか、」
「こんなこと聞くのもどうかとは思うけど、どうしてこうなっちゃったの?」
「その、海を見に」
「そう」
少しばかり沈黙が流れる。歩夢はもう察してくれたんだろう。こういう子が彼氏だったら良いのに。
でもいくら歩夢が優しくたって何も理由を話さいないのはかわいそうだから流石に説明することにした。
「この間、日光に行ったときに嫌なこと思い出させちゃったじゃない?」
「嫌なこと…まぁそうか」
「それなのに私は何もしてあげられなくて、そんな自分が不甲斐なくて。だから、歩夢も私のことが嫌いになっちゃたりしてないかなって心配で」
「そんなわけない!」
「おぉ…」
普段歩夢が出さないような大声で言ってくれた、今私が一番欲しかった台詞。
「俺は、伊月の身に何故来てないか心配で、伊月は大切な友達だから。死んじゃったら悲しいし、だから助けられてよかった」
私のこと、そんなふうに思っててくれたんだ。こんな人が近くにいたのに、死のうとしてしまった自分が馬鹿だ。
申し訳ない気持ちはもちろんとして、いろいろな感情が混ざり合う今の私に一つだけ伝えられることがあるとしたら、やっぱりそれは感謝だろう。
「歩夢、ありがとう」
「いいよ、伊月がちゃんと生きてくれてるし」
本当に優しいな、前からつくづく感じていること。今までこんな子に出会ったことはない。
「伊月」
愛しい人が私の名前を読んでくれる。
「なに?」
「帰ろうか」
「うん!」
帰る足取りは、来たときの何倍も軽い。歩夢、本当にありがとう。
