「やぁ、歩夢。こんな朝早くから悪いね。」
 「いや、いいよ。それより伊月に嫌われていないようで何よりだよ」
 「私が歩夢を?そんなわけないじゃん」
 「そ、そう?」
 「はい、それはいいから乗るよ」
 「おう」
 やはり、霞ヶ関に行く理由は分からない。行ったら分かるんだろうか。それはそうと、今から乗るのは、湘南新宿ラインの快速、籠原行き。快速とはいえどそこまで速いわけでもないので所要時間は、1時間ちょいかかる。しかしボーっとしていると1時間というのはあっという間で気づけばもうすぐ恵比寿に着くというアナウンスがされていた。
 「さーて、恵比寿に着いたけど目的の電車までは時間があるから埼京線の特急でも撮りますかね」
 「埼京線の特急?んな列車設定されてたっけ?」
 「そうだよ、相鉄との直通で始まったらしいね。ま、埼京線内は各駅停車だから乗車料金だけで乗れるんだけどね」
 「ほえー」
 さすが伊月は関東私鉄専門ということだけあってこういうところに詳しい。気づけばの俺たちの会話ができるようになっていた。俺は全然話せずにそんな話をしているとその列車が到着したのだが、E233系の特急の幕は違和感がありすぎて、なんとも言えない感じだ。通勤型の車両で特急の表示がされるのは、阪急や、京急のイメージが強いのでもとても珍しく思える。それを撮り終えると、ちょうどいい時間になったので俺達は、日比谷線のホームへと向かった。行くと、すぐに目的の列車が到着した。
 「お、使用車両70000なんだな」
 「そうだね、でも今日はこっちの方が良い」
 こっちの方が良い、とはどういうことだろう?確か伊月も13000好きだったと思うのだけれど。最近の伊月の行動には不可解なところが多い。まぁ意味もなくそんな行動をするのは伊月ではないので、何か深い理由があるのだろうけど。
 「それで、北千住に着いたらどーすんの?」
 「ちょっと待ってから準急の南栗橋行きで春日部まで移動して、そこからスペーシアXで東武日光まで行ったら普通で栗橋まで戻ってこようかな、と」
 「なかなか乗るんだな、今日は」
 「そうだね」
 伊月ってこんなハードな旅をする派だったか?絶対疲れて帰りの宇都宮線で寝るぞ。そもそも伊月と行く鉄道旅はどこかに目的があってそこに行くか、その周辺をちょっと周るぐらいじゃなかったっけ?みなとみらいを周るついでに中華街に行く、ぐらいの。
 ただ今日の伊月には有無を言わせない雰囲気があり、言われるがままについて行ってる。日比谷線に乗った後も伊月は思い詰めたような表情をしている。かといって今の俺に声をかける勇気はない。もちろん好きな人がこんな様子なら心配はするものだが、変に声をかけて嫌われるのも怖いからな…そんなこんなで伊月の心配をしていると北千住に到着したようだ。