「おい、野上。世にも珍しい新入会員が来たぞ」
「新入会員!」

 メガネ先輩が屋上の扉を押さえ、後方に控えている人物を手招きする。コウタ先輩が一気にテンション高くなったことで、わたしも慌ててジャージの埃を払った。
 黒のブレザーに灰色のズボン、結ばれているのは赤いネクタイ。わたしは新入会員の顔を見て、「あ」と声を上げた。

桜木(さくらぎ)くん?!」
「え、なになに、モモちゃん知り合い?」
「渡辺さんとは同じクラスです。桜木尚(さくらぎなお)です。よろしくお願い致します」

 薄いフレーム眼鏡をかけ、校則通りぴしっと頭を下げた桜木くんにコウタ先輩がふんふーんと上機嫌で近寄っていく。

「同好会代表の野上です。どうぞよろしくー。ところで……桜木くんは演者希望かな? かな?」
「いえ、僕は音響希望です」
「ふむふむ。演者きぼ……じゃないんかい! 音響かい!」
「私の役目が一つ減るな。万々歳だ」
「もしかして裏方は募集されてなかった……?」
「のんのん! そーんなことない! 大歓迎だよ、桜木くん!」

 ばしばしと桜木くんの肩を叩くコウタ先輩の背中に、微妙なせつなさが漂って見えます。

「今日は一人休みだから、後日歓迎会をするとして! ようこそ桜木くん、@home(アットホーム)へ!」
「二年のメガネだ、よろしく」
「同じ一年のモモです! モモは同好会のあだなです! よろしくおねがいします!」
「桜木です。よろしくおねがいします」

 桜木くんがコウタ先輩に入会届をさしだす。すかさず横から受け取ったメガネ先輩が、ぐっと親指を立てた。

 新生@home(アットホーム)、桜木くん加入でスタートです!