☆★ @home(アット・ホーム)の基本ルール ☆★


1・新しい事を始める時→メンバー全員が賛成したらオッケー!

2・休みたい日は休んでオッケー! ココで寝るのもオッケー!
(寝袋で寝る時→貼り紙をすること!)

3・活動時間は十七時半まで! 遅くなる時はメガネ先輩へ連絡!
(※十七時四十五分にカギを閉める byメガネ)

4・活動内容は自由! 活動用紙に”やりたいこと“を書いて、メガネ先輩へ提出!

5・活動場所は自由! 他の部や同好会のジャマはしない!
(※許可がでるまで、野上(のがみ)は放送室立ち入り禁止 byメガネ)


 ☆★ 1人1人が、今を楽しもう‼︎ ☆★


 わたしはメガネ先輩の話を聞きながら、生徒手帳へメモ。
 カギの開け閉めは、メガネ先輩が担当。
 活動記録である同好会日誌をまとめる事も、メガネ先輩が担当。
 生徒会が行なっている部活動・同好会会議にも、メガネ先輩が参加。
 先生や他部活・同好会への対応、備品(びひん)管理や必要書類の作成・提出など、細かい事は全てメガネ先輩が担当。

 なるほど。
 同好会として成立するには、メガネ先輩のサポートが不可欠(ふかけつ)
 コウタ先輩が“先輩呼び“をするのは、@home(アット・ホーム)のボス=メガネ先輩だからだ……!

 ちなみに、コウタ先輩の活動用紙に書かれていたのは【モモちゃん!】だけ。
 【モモちゃん!】を【新メンバー加入により、同好会室へ案内】に書き直すメガネ先輩、スゴイ!

「はいはーい! 俺から提案(ていあん)! メンバーも増えたし、みんなで勧誘用の寸劇(すんげき)をしようと思うんだけど。どうかな?」

 棚の前に立っていたコウタ先輩が、右手をあげる。

「やりたいです!」
「賛成だ」

 わたしに続き、メガネ先輩、ユキ先輩と手があがる。

「よーし、寸劇をします! そうだなぁ、勧誘用でやるなら……あの話かな。ウケが良かったのはこれとそれで……あ、でも今年はモモちゃんがいるから……あれでもいいか」

 棚へ振り返ったと思いきや。
 コウタ先輩がポイポイと冊子を取りだす。
 色も厚さも置いてある場所もバラバラなのに、いっさい迷いがない動き。
 ポカンと口を開けたわたしを見て、メガネ先輩が「モモ」と声をかけてくれた。

「演じた役はもちろんだが。観たもの、聞いたもの、読んだもの。演劇関係であれば、野上(のがみ)は全部覚えているぞ」
「ぜ、全部……ですか⁈」
生粋(きっすい)の演劇バカだ。まさしく”バカと天才は紙一重(かみひとえ)”だな」
「そうなんですね……すごい……」

 わたし達の会話すら聞こえていない様子で。
 コウタ先輩は唇に人差し指を当て、ブツブツ言いながら、冊子をめくっている。

(……あんな顔もするんだ……コウタ先輩……)

 優しくて甘い笑顔は、いつ見てもドキドキする。
 まっすぐで真剣(しんけん)な顔を見るのは、別の意味でドキッとする。
 コウタ先輩は、コウタ先輩なのに。
 表情が違うだけで、王子様が二人いるみたい。

「モモちゃん? どうかした?」

 コウタ先輩が視線を上げ。
 わたしは熱くなった顔を、あわてて下へ向ける。

「な、なんでも……あ、暑いですね、この部屋!」

 わからない。
 わからないけれども。
 今、顔を見られるのは。
 とてもとても、はずかしい。

「クーラーないから暑いんだよねー。待ってね、窓を開けるから」
「ありがとうございますっ!」

 この部屋は暑い。
 けれど、暑さのせいじゃなくて。
 わたしの身体中に、別の熱さが流れているから、熱いんだ。

「そうだ。ユキ、手で持てる扇風機持ってなかったっけ。あ、そうそうハンディファン。暑さ対策のヤツ。モモちゃんに貸してあげてー」

 ユキ先輩が、スクールバッグの置いてある棚へ歩く。
 ガタガタと音を立てながら、コウタ先輩が窓を開ける。
 その時。
 窓から入ってきた風が、コウタ先輩の白いパーカーとユキ先輩の黒髪を舞いあげ。
 絵のような光景が広がり、わたしは息を飲んだ。

「やっぱり開けたほうが気持ちいいなー。……ん? ユキ、どうした?」
「…………」
「ちょ、ユキ、ストーップ! ……ったく、無理にのぞこうとするなよー。せまいんだからさー」

 わきの下からもぐりこんだユキ先輩を見て、コウタ先輩が笑う。
 ユキ先輩は髪の毛をかきあげ、ピースサイン。
 身長差もピッタリ。
 王子様のコウタ先輩と、お姫様のユキ先輩。
 二人が並んでいる姿は、どこからどうみても、おにあいのカップルにしかみえない。

 …………ツキン。
 変な音が、わたしの胸の奥で鳴る。
 …………ツキン、ツキン。

「ユキ。身を乗りだしてると落ちるぞー」

 ツキン。ツキン。ツキン。
 どんどん、ひどくなってる……?

「モモちゃん? 大丈夫?」
「だ、だ、だ、大丈夫です!」

 コウタ先輩が伸ばした手から、逃げるように。
 わたしはバッと体をひねり、胸を押さえる。

「…………」
「……ユキ。え、俺が悪い? 俺のせい? 俺、何かしたっけ……?」
「…………」

 軽い足音で近づいてきたユキ先輩が、わたしへハンディファンをさしだす。

「あ、ありがとうございます、ユキ先輩。お借りします」

 片手を振り、コウタ先輩の隣へ戻るユキ先輩。
 首をかしげているコウタ先輩の頬を、ユキ先輩の細い指がつつく。

 ツキン。ツキン。ツキン。
 変な音がするたびに、身体が冷えていく。
 ツキン。ツキン。ツキン。
 この音は、嫌な感じが、する。

(……コウタ先輩は誰でもあだ名で呼ぶんだって、勝手に思っていたけれど……ユキ先輩だけは本名で呼んでるんだ……)

 楽しみにしていたはずの同好会初日。
 嫌な音は、わたしの胸の奥で、ずっと鳴り響いたままだった。