君が世界のすべてだった

 スマホのアラームにたたき起こされる朝。
 あまりの寒さに、怜依はアラームを止めると、布団に潜り込んだ。
 こんなに寒いのに、布団から出られるものか。
 そう思っていたら、電話がかかって来た。

「……あい」

 半分寝ぼけた状態で電話に出たことで、呂律が回っていない。

「おはよう、怜依ちゃん!」

 電話の向こうから聞こえてきたのは、咲乃の明るい声。
 怜依の目は一気に覚めた。

「おはよう、咲乃」
「よかった、今日はすぐに起きてくれた」
「……心外だな、いつも咲乃の声を聞いたらすぐに起きてるよ」
「えー?」

 疑いの声も可愛らしいと思いながら、怜依は欠伸を一つした。

「じゃあ、またあとでね。二度寝しちゃダメだよ!」
「はいはい」

 そして電話を切ると、怜依は布団から出た。
 あまりの寒さに身体を震わせながら、身支度を整えていく。
 家を出ると、もう咲乃はいた。

「おはよう、怜依ちゃん」

 夏よりも少し伸びた髪に、ピンク色のヘアピンがついている。
 当然のごとく、咲乃に似合っているけれど、見覚えのないものだ。

「それ、どうしたの?」
「昨日、織寧ちゃんたちと出かけて、お揃いで買ったの」

 心から嬉しそうにする咲乃に癒される。
 新城にもらった、とかではなくてよかった、なんて思う自分は、相変わらず心が狭いらしい。

「よく似合ってるよ」

 そして二人は並んで学校に向かう。
 すっかり寒くなったとか、テストが近いとか、もうすぐ咲乃の誕生日だとか。
 他愛もないことを話す時間は、怜依にとっても幸せだった。
 校門が見えてきたとき、佑真の姿を見かけた。
 それは怜依だけではなく、咲乃もだった。
 声をかけるか否か。
 揃って悩んでいるうちに、佑真は校舎に入っていった。
 さっきまでの時間がウソのように、二人は気まずさを感じる。

「今日も一緒に登校? 相変わらず、仲良しだな」

 そんな二人の背後から新城が現れた。
 目を奪う銀色の髪は、さらに明るい金色になっている。
 怜依は新城に対して、敵意をむき出しにする。

「そんな睨まなくても、白雪を奪ったりしないって」

 新城はにやりと笑う。

「ま、白雪が俺を選んだらわかんないけど」
「絶対選ばせないから」

 怜依が言い返すと、新城はますます楽しそうに笑っている。

「隼人、なにしてるの?」

 すると、花那が新城の背後から顔を覗かせた。
 またさらに面倒な人物が現れて、怜依は顔を顰める。

「……足立さん。そいつ、捕まえてて」

 怜依はそう言うと、咲乃の腕を引いて校舎に向かった。

「怜依ちゃん、まだ新城先輩のこと、ニガテ?」
「……私をからかって遊ぶから」

 咲乃が少し残念そうに見えるのは、気のせいであってほしい。
 今後は咲乃に彼氏ができても、咲乃のことを大切にしてくれる人なら受け入れようって思っているけれど。
 新城だけは、イヤだから。

「そっか……じゃあ、先輩に告白するのは、もう少し先にするね」
「……え?」

 聞き間違いだと信じたいのに、咲乃の笑顔がそうさせてくれない。

「だ……」

 ダメ。
 そう言うよりも先に、咲乃は校舎に入っていく。

「怜依ちゃん、はやく!」

 校内から、咲乃は怜依を呼ぶ。

「新城はダメだからね、咲乃!」

 怜依が追いかけると、咲乃は笑って逃げていく。
 楽しそうな声を追いかけながら、怜依は思った。

 咲乃だけじゃない世界も悪くないって。