五月。
真面目、勉強、陰キャ、
今年のキャラ設定をなんとか終えた私は今日も一人、自席で教科書を開いている。

朝七時に学校に来て勉強をすれば、
夜、家で勉強をしなくても大丈夫。

などと自分に言い聞かせて今日の授業の予習をしている。

三年八組は、理系選択者と文系選択者が集まったクラスで、
同じクラスであっても、
受ける授業が違っていたり、移動教室が重なったりして
クラスの一体感、というものはあまりない。
(それが逆に楽かも)

勉強熱心な生徒が集まっているわけではないけれど、
授業妨害もないし、(ほとんどの生徒が寝ているからだと思う…)学級崩壊もない。

思っていたよりも平和なクラスなのかなと一安心する。

受験生っていう敏感な時期に、勉強以外の悩みがあっては邪魔でしかない。

キャラ設定に悩んで過ごした四月。

色々試してみた結果、
真面目、勉強をベースとした目立たない陰キャでいることが一番楽だと気づいた。

変に明るく振る舞っても、猫かぶってると思われたくないし、私らしくない。

「ありのままのひなたで」

そう言って笑った父がいたけど、

ありのままの私って私自身、全くわかっていない。

そう思って窓の外に目をやると、
四月はピンク色に染まっていた桜の木がいつの間にか葉桜になっていた。

(来年の春、この桜の木を自分はどんな思いで見つめているのかな…)

今年の春は、不安でいっぱいの気持ちでも見つめていたけど、

と半分皮肉そしてもう半分は本気な悩みを胸に浮かべる。

桜の木ではなくなった桜の木をぼんやり眺めているところで、
朝の予鈴が鳴り始めた。

あの始業式の日以来、
一度たりともクラス全員が揃うことがなかった私のクラスは
今日、二回目の全員揃った日を迎えた。

「今日は珍しく、全員揃いましたね。
では、朝のHRを始めていきます。まずは…」

全員揃ったことが珍しいと評価されるクラスの一員であるんだとなんとも言えない感情を抱いていると、
斜め後ろの席から声をかけられた。

「ね、今日全員揃ったから、写真撮るんじゃない?クラス写真。」

カールが綺麗にかかった髪をいじりながら林さんが私に尋ねる。

(そういうことは、私じゃなくて先生に聞いた方が…)

なんて考えつつ、

「そうかもね、学年だよりには写真撮影日にクラス全員が揃わなかった場合、
別日に写真を撮る、と書いてあったしね。」

と小声で返した私をみて、

「はい、
下原さんのご指摘通り、全員揃ったということは、
今日やっと三年八組のクラス写真が撮影できるということですね。
みなさん、今日の昼休み、校庭に集合ということでよろしくお願いします。
以上、連絡事項でした。」

と小谷先生がHRを締めくくる。

小谷先生のHRが終了したが、
クラス写真撮影以外の連絡事項は全く頭に残っていないらしく、
三年八組はクラス写真のことでもちきりとなった。

ポーズ何にする?

前髪やばいかな?

えー今日、寝癖直してきてないのに、

てか、写真で昼休み潰れるとか嫌だなー、

口々に聞こえる八組の陽キャらしいコメントに、
朝から昼のことを心配している私だった。