「お疲れ様。」

「うん、ありがとう。」

普段のように教室に入ってきた私に、
星宮君は「おはよう」の一言よりも先に「お疲れ様」と言ってきた。

「面接、どうだった?」

「うん、楽しかった。」

「…遠足の感想?」

東京での面接を終えて、戻ってきた私は、
星宮君の指摘通り「遠足」のように楽しんできた気がする。

付き添いで一緒に来てくれた母と二人で新幹線に乗り、
試験会場近くのホテルに泊まり、次の日に受験。
受験が終わったあとは、東京観光(プチ・春休み)を満喫し、父が待つ自宅に帰る。

そんな受験が楽しくないわけがない。

「だって、面接とか、将来私が授業を受ける教授さんと話せるチャンスだよ!
すごいよ、こんな受験生のために時間を取ってくれてさ。」

「…うまくいったのならよかった。」

「うん、なんか話しすぎた気もするけど…」

「いや、下原さんの良さは話したほうが伝わるからいいよ。」

「え、なにそれ。」

「ほんと、ほんと。」

私の感想を一通りきいて、冗談を言う余裕もできた星宮君に目をやる。

東京での面接を終えて、気分が上がっている私が
勉強モードの星宮君の邪魔をしてしまっては元も子もないと、口をつぐむことにする。

「でも、朝学習は続けるんだよね?」

黙って席についた私に、星宮君が話しかける。

「うん、そうだね。
だって、これで落ちてたら合格発表…
あ、不合格発表の一週間後ぐらいには一般試験があるからね。」

「いや、大丈夫でしょ。」

「念には念を、だよ。」

使い方が合っているのかわからない日本語を引用してみる。

「そっかそっか。じゃあ、これからもよろしく。」

「うん、こちらこそ。」

朝学習フレンズ、な私と星宮君は、朝学習がなくなったら
つながるものが消えてしまうのかと思い当たる。

そう思うのは少し悲しいけど、仕方ない。
人間はみんな、目的を持ってつながっている。

私は最初、星宮君にとって「勉強を教えてくれる人」のはずだったけど、
今では私の方が星宮君の言葉に支えられている。

そんな気が、する。