次の日。
学校があれば、昨日のことをまた謝ることはできたのに。
学校が休みになってこんなにも悔しい思いをしたことはない。
先週から予報が出ていた台風のせいで、
暴風警報が発令され、高校は臨時休校となった。
小学校の時は、大雨警報で学校が休みになっていたけど、
あまりにも大雨警報が発令されるせいか、
そんなルールはいつの間にか消えていた。
私の母は、
「人間は砂糖じゃないし、雨ぐらいで溶けない。」
と謎のセリフを言い放ち、大雨警報で休みになる学校に
不機嫌になっていた。
そんな母にとって、暴風警報で休みになるということは、
やっぱり受け入れ難い事実らしく、朝から嫌味を吐いている。
母の嫌味を片耳に挟みながら勉強なんてできるわけもなく、
私は、今日一日の使い方に悩んでいた。
「ひなた、勉強する?」
学習デスクに座っただけの私に、父が声をかける。
「私、勉強したい。」
「そっか」
短く答えただけのこのフレーズに、
父は全ての意味を感じ取ったのか、母の方に向き直る。
「ね、今日、映画館行かない?」
「「は?」」
暴風警報が発令されている朝方だというのに、
この人は何を言い出すのか。
私と母の冷たい視線が父に集まる。
「いや、あなた、仕事は?」
「今日、暴風警報だから、先方のミーティングキャンセル希望が出て。
会社の方も、出勤すると危険だろうからって、リモートになった。」
てへっとでもいうように頭を掻いた父が答える。
「え、でも映画館って…」
外、暴風だよ?と風の音と、何かが飛ばされる音しか聞こえてこない
窓の外に目をやる。
そんな私をチラリと確認した父は、
母に向き直る。
「ほら、今日、誰も外出ないだろうから、
映画館空いてるよ。ずっとみたかった映画、平日料金でみれるよ。」
(ほら、今日、暴風警報だから、誰も外出ないんだよ。)
父のセリフに心の中で訂正を加える。
説得力のかけらもない父の言葉に、
なんて答えるだろう?と母のリアクションを待つ。
「平日料金…」
え、気になるのそこなの?と
暴風警報そっちのけで、お金の話をする母に驚く。
「そうだよ、平日料金。大人も1000円!」
「…いいわね。行きましょう!」
「へ?」
いや、ちょっと待ってよ、暴風警報だよ?
何考えてるの?危ないよ。
そんなセリフが口から滑り出しそうになった時、
「ひなたは、家で勉強してていいよ。
映画館ついでに、買い物もしてくるから。」
父が振り返って私に言う。
「でも…」
「大丈夫。父さんと、母さんで二人、デートしてくるよ。」
勉強したい、と言った私の希望を叶えるため、
母とのデートプランを即興で持ち出す父。
ありがとう、と言えばいいのか、
ごめんと謝るべきなのか、正解に辿り着かなかった私に、
「え、ひなたは行かないの?」
外に出る準備を完璧に整え、
すでに玄関に立っている母が私に声をかける。
「え、外、暴風警報だよ?危ないよ。」
先ほど、口から出そうになった言葉を母にかける。
「映画館は、暴風なってないよ。」
「いや、そりゃそうだけど…」
「それに、今みたい映画は、今生きている間にみておきたいしね。
いつ死ぬか、わからないからぁ〜。」
暴風警報の中、さっきまでの不機嫌さはどこにいったのか、
陽気な母が目の前に立っている。
これ以上、何を言えばいいのかわからなくて、
口をつぐむ。
「ひなたは勉強するらしいから、二人でデートしようか。」
玄関に父が入ってきて、
私が答えられなかった、母の質問に答える。
「あら、そうなの、残念」
全く残念そうなそぶりも見せず、母が短く言う。
「え、デート、残念…?」
「あら、違うわよ。ひなたが来れないことが残念って。」
わざとらしく落ち込む父に母が訂正する。
まるでピエロのようにニコッと笑った父が、
「じゃあ、いってきます。」
と私に手を振る。
「いってらっしゃい、気をつけて。」
いつもよりも、気をつけて、にアクセントをつけて
二人の背中を見送る。
『今みたい映画は、今生きている間にみておきたいしね。』
今ききたいことは、今、生きている間に、
まだ、クラスメイトである間に、きいておきたい。
母の言葉に一人、そうだよね、と頷く。
(明日、学校に行ったら、
きちんと星宮君に向き直ってみよう。)
暴風警報の日の母の言葉に、少しだけ勇気をもらった気がした。
学校があれば、昨日のことをまた謝ることはできたのに。
学校が休みになってこんなにも悔しい思いをしたことはない。
先週から予報が出ていた台風のせいで、
暴風警報が発令され、高校は臨時休校となった。
小学校の時は、大雨警報で学校が休みになっていたけど、
あまりにも大雨警報が発令されるせいか、
そんなルールはいつの間にか消えていた。
私の母は、
「人間は砂糖じゃないし、雨ぐらいで溶けない。」
と謎のセリフを言い放ち、大雨警報で休みになる学校に
不機嫌になっていた。
そんな母にとって、暴風警報で休みになるということは、
やっぱり受け入れ難い事実らしく、朝から嫌味を吐いている。
母の嫌味を片耳に挟みながら勉強なんてできるわけもなく、
私は、今日一日の使い方に悩んでいた。
「ひなた、勉強する?」
学習デスクに座っただけの私に、父が声をかける。
「私、勉強したい。」
「そっか」
短く答えただけのこのフレーズに、
父は全ての意味を感じ取ったのか、母の方に向き直る。
「ね、今日、映画館行かない?」
「「は?」」
暴風警報が発令されている朝方だというのに、
この人は何を言い出すのか。
私と母の冷たい視線が父に集まる。
「いや、あなた、仕事は?」
「今日、暴風警報だから、先方のミーティングキャンセル希望が出て。
会社の方も、出勤すると危険だろうからって、リモートになった。」
てへっとでもいうように頭を掻いた父が答える。
「え、でも映画館って…」
外、暴風だよ?と風の音と、何かが飛ばされる音しか聞こえてこない
窓の外に目をやる。
そんな私をチラリと確認した父は、
母に向き直る。
「ほら、今日、誰も外出ないだろうから、
映画館空いてるよ。ずっとみたかった映画、平日料金でみれるよ。」
(ほら、今日、暴風警報だから、誰も外出ないんだよ。)
父のセリフに心の中で訂正を加える。
説得力のかけらもない父の言葉に、
なんて答えるだろう?と母のリアクションを待つ。
「平日料金…」
え、気になるのそこなの?と
暴風警報そっちのけで、お金の話をする母に驚く。
「そうだよ、平日料金。大人も1000円!」
「…いいわね。行きましょう!」
「へ?」
いや、ちょっと待ってよ、暴風警報だよ?
何考えてるの?危ないよ。
そんなセリフが口から滑り出しそうになった時、
「ひなたは、家で勉強してていいよ。
映画館ついでに、買い物もしてくるから。」
父が振り返って私に言う。
「でも…」
「大丈夫。父さんと、母さんで二人、デートしてくるよ。」
勉強したい、と言った私の希望を叶えるため、
母とのデートプランを即興で持ち出す父。
ありがとう、と言えばいいのか、
ごめんと謝るべきなのか、正解に辿り着かなかった私に、
「え、ひなたは行かないの?」
外に出る準備を完璧に整え、
すでに玄関に立っている母が私に声をかける。
「え、外、暴風警報だよ?危ないよ。」
先ほど、口から出そうになった言葉を母にかける。
「映画館は、暴風なってないよ。」
「いや、そりゃそうだけど…」
「それに、今みたい映画は、今生きている間にみておきたいしね。
いつ死ぬか、わからないからぁ〜。」
暴風警報の中、さっきまでの不機嫌さはどこにいったのか、
陽気な母が目の前に立っている。
これ以上、何を言えばいいのかわからなくて、
口をつぐむ。
「ひなたは勉強するらしいから、二人でデートしようか。」
玄関に父が入ってきて、
私が答えられなかった、母の質問に答える。
「あら、そうなの、残念」
全く残念そうなそぶりも見せず、母が短く言う。
「え、デート、残念…?」
「あら、違うわよ。ひなたが来れないことが残念って。」
わざとらしく落ち込む父に母が訂正する。
まるでピエロのようにニコッと笑った父が、
「じゃあ、いってきます。」
と私に手を振る。
「いってらっしゃい、気をつけて。」
いつもよりも、気をつけて、にアクセントをつけて
二人の背中を見送る。
『今みたい映画は、今生きている間にみておきたいしね。』
今ききたいことは、今、生きている間に、
まだ、クラスメイトである間に、きいておきたい。
母の言葉に一人、そうだよね、と頷く。
(明日、学校に行ったら、
きちんと星宮君に向き直ってみよう。)
暴風警報の日の母の言葉に、少しだけ勇気をもらった気がした。