「『付き合って』ってこれのこと?」
私が気まぐれに始めて、気まぐれに終わらせた休憩時間が終了し、
再び星宮君と向かい合った。
(廊下を散歩して、外に出て新鮮な空気を吸ってきた。
大丈夫。いつもの私だ。真面目、勉強…、…?)
あと一つのキャラ設定を思い出すことができず悶々とした私に、
星宮君がもう一度言う。
「下原さん、『付き合って』ってこれのこと?」
そう言った彼の机には、私のノートと三十cm定規が置かれている。
「うん、赤本を解くノートを作りたくて、もってきた。
学習、とはちょっと違うけど、今日私がやりたかったこと。」
「このノートと定規で何をすればいい?」
「えっと、まずは…」
道具だけ用意して、手順を説明し忘れていた私は一旦席から立ち上がり、
星宮君の隣の机に腰掛け、
ノートを広げる。
赤本を解く専用のノートは、A4サイズ。
ドットが入っている罫線ノートだから、
縦にまっすぐ線を引くことができる。
右から五行目のところで縦に線を引っ張って、
ノートを二分割する。
左側で問題を解いて、
右側には気づいたことや、ミスをしたところなどを書き込む。
「だから、その線を引く作業を終わらせないと、問題演習に進めなくて…」
手伝ってくれる?と定規を差し出す。
説明がされていたノートから、
私へと視線をうつした星宮君は言った。
「これが、下原さんが『付き合って』って言ったこと…」
「…っもういいから!」
いつまでも過去の自分の言葉を後悔する私から、
ハハッと笑った星宮君が定規を受け取った。
「二人で作業すると、あっという間だね。」
数学と英語のノートをもってきていた私は、
線引きが終了し、
ただのノートから赤本演習ノートに生まれ変わった二冊を抱えて言う。
「線引くくらいは、俺でもできる。」
「俺でも、って…」
変なところで自分を卑下する星宮君。
「生徒会長」が口癖で、自分のことが大好きな五十嵐君とは対照的に、
目の前の星宮君は少し大人に感じる。
(そう言えば、私、星宮君のこと何も知らないかも。)
すぐ横にいるのに、口癖も、話し方も、好きなものも、嫌いなものも
そして、文系か理系かすらもわかっていない。
しばらく黙り込んでいる私に、
星宮君が話しかけてきた。
「そういえばさ、下原さんってどこの大学目指してるの?」
どの大学の赤本を解くのかも教えずに、
赤本ノート作りを手伝わせてしまっていた自分に気づく。
「大学は…、秘密ってことでいい?」
手伝わせたくせに、なんとも自己中心的な人なのだろうと、
自分が自分で嫌になる。
だけど、
私の志望校を言ってしまったら、なんとなくいけないような気がした。
もし、星宮君がその大学を目指していて、
私が行きたい大学って知ったとして。
彼の決断に迷いが生じるかもしれない。
下原と同じ大学は嫌だ、とかね。
そんなことがあっては困ると、
沈黙を保っている方が楽だと私は思う。
「下原さんは、秘密が多いね。」
今、志望大学という一つの秘密しか作らなかったはずなのに、
星宮君は笑いながら言う。
「そうでもないよ。
ただ、言わなくてもいいなら言わないでおいたほうがいいと思って。」
「そっか。」
私の言葉に納得いったのか、星宮君は自分の机に向き直る。
その横顔をみていて、
星宮君のことを何も知らないでおくことが怖くなった。
「あのさ、」
と彼に声をかける。
私の方を見た星宮君は、ん?と私に続きを促す。
「星宮君は?大学、どこ行くの?」
「俺は…」
少し考えるように上を仰いだ星宮君が再度私の方を見て言った。
「『秘密ってことでいい?』」
「…星宮君は、今日私の真似するのが多いね。」
「バレたか。」
ハハッと笑った星宮君に
再度同じ質問を聞くことのできない私だった。
私が気まぐれに始めて、気まぐれに終わらせた休憩時間が終了し、
再び星宮君と向かい合った。
(廊下を散歩して、外に出て新鮮な空気を吸ってきた。
大丈夫。いつもの私だ。真面目、勉強…、…?)
あと一つのキャラ設定を思い出すことができず悶々とした私に、
星宮君がもう一度言う。
「下原さん、『付き合って』ってこれのこと?」
そう言った彼の机には、私のノートと三十cm定規が置かれている。
「うん、赤本を解くノートを作りたくて、もってきた。
学習、とはちょっと違うけど、今日私がやりたかったこと。」
「このノートと定規で何をすればいい?」
「えっと、まずは…」
道具だけ用意して、手順を説明し忘れていた私は一旦席から立ち上がり、
星宮君の隣の机に腰掛け、
ノートを広げる。
赤本を解く専用のノートは、A4サイズ。
ドットが入っている罫線ノートだから、
縦にまっすぐ線を引くことができる。
右から五行目のところで縦に線を引っ張って、
ノートを二分割する。
左側で問題を解いて、
右側には気づいたことや、ミスをしたところなどを書き込む。
「だから、その線を引く作業を終わらせないと、問題演習に進めなくて…」
手伝ってくれる?と定規を差し出す。
説明がされていたノートから、
私へと視線をうつした星宮君は言った。
「これが、下原さんが『付き合って』って言ったこと…」
「…っもういいから!」
いつまでも過去の自分の言葉を後悔する私から、
ハハッと笑った星宮君が定規を受け取った。
「二人で作業すると、あっという間だね。」
数学と英語のノートをもってきていた私は、
線引きが終了し、
ただのノートから赤本演習ノートに生まれ変わった二冊を抱えて言う。
「線引くくらいは、俺でもできる。」
「俺でも、って…」
変なところで自分を卑下する星宮君。
「生徒会長」が口癖で、自分のことが大好きな五十嵐君とは対照的に、
目の前の星宮君は少し大人に感じる。
(そう言えば、私、星宮君のこと何も知らないかも。)
すぐ横にいるのに、口癖も、話し方も、好きなものも、嫌いなものも
そして、文系か理系かすらもわかっていない。
しばらく黙り込んでいる私に、
星宮君が話しかけてきた。
「そういえばさ、下原さんってどこの大学目指してるの?」
どの大学の赤本を解くのかも教えずに、
赤本ノート作りを手伝わせてしまっていた自分に気づく。
「大学は…、秘密ってことでいい?」
手伝わせたくせに、なんとも自己中心的な人なのだろうと、
自分が自分で嫌になる。
だけど、
私の志望校を言ってしまったら、なんとなくいけないような気がした。
もし、星宮君がその大学を目指していて、
私が行きたい大学って知ったとして。
彼の決断に迷いが生じるかもしれない。
下原と同じ大学は嫌だ、とかね。
そんなことがあっては困ると、
沈黙を保っている方が楽だと私は思う。
「下原さんは、秘密が多いね。」
今、志望大学という一つの秘密しか作らなかったはずなのに、
星宮君は笑いながら言う。
「そうでもないよ。
ただ、言わなくてもいいなら言わないでおいたほうがいいと思って。」
「そっか。」
私の言葉に納得いったのか、星宮君は自分の机に向き直る。
その横顔をみていて、
星宮君のことを何も知らないでおくことが怖くなった。
「あのさ、」
と彼に声をかける。
私の方を見た星宮君は、ん?と私に続きを促す。
「星宮君は?大学、どこ行くの?」
「俺は…」
少し考えるように上を仰いだ星宮君が再度私の方を見て言った。
「『秘密ってことでいい?』」
「…星宮君は、今日私の真似するのが多いね。」
「バレたか。」
ハハッと笑った星宮君に
再度同じ質問を聞くことのできない私だった。