七月中旬。
つまり、夏休みを目前に控え、
授業は午前中のみの短縮日課だ。
五十五分で一コマの授業である私の高校は、
一・二限の後はお昼休みとなっている。
通常日課でない今日、
二限目を終えた私たちは帰りのHRを待っているところだった。
「はい、みなさん席についてー。」
授業が終わり、早く帰宅したくてウズウズしている三年八組に向かって
小谷先生は声をかける。
「本日の連絡事項は特にありません。
この後三者懇談会があるので、該当者は帰宅しないこと。以上。
みなさん、お気をつけてお帰りください。」
小谷先生の言葉が終わった瞬間、
さよーならーっと三年八組は生き生きと教室を飛び出していった。
そんなクラスメイトを見送り、自席に座ったままの私に
「え、下原、帰らないん?」
と五十嵐君が声をかける。
「あ、今日、この後三者懇談だから。」
と短く答えた私に、
「俺もなんだよね。今、親待ち中。」
と言って星宮君が振り返る。
(星宮君も今日なんだ。)
と今更ながら思った私と
いやー、緊張してきた、と笑った星宮君を見て、
「二人とも、頑張れ。」と五十嵐君が言った。
「「ありがとう。」」
と二人の声がシンクロしたことに笑い出した五十嵐君だったが、
「颯太ぁー!帰ろー!」
とドア付近で叫ぶ林さんの元へ
「わかったから、ちょっと待って。」
と言いながら駆け寄り、教室を後にした。
林さんと一緒に帰る五十嵐君の背中を星宮君と見送った後、
教室に二人残された、
とでも言えば少しは雰囲気があっただろうに、
他にも三者懇談を待っている生徒はいて、みんな思い思いにスマホをいじっている。
(そういえば、星宮君がスマホを触っているの、見たことないかもしれないな)
そう思って星宮君を見つめていると、
「ん?どうかした?」と星宮君が尋ねてくる。
なんでもない、と答えてはあまりにもつまらないと思い、聞いてみることにした。
「星宮君ってさ、」
(スマホ触らないよね)はあまりにも不自然か、と考え直し
「えっと…髪の色、明るいよね。」
口に出して最後、自分でも何言ってるんだろうと反省した。
え、と一瞬戸惑いの色を見せた星宮君だったが、
「いや、でも地毛だよ。染めてない。」と自分の髪をかきあげながら答える。
「そうだよねって、変なこと聞いてごめん…」と咄嗟に謝る。
「あ、じゃあさ、俺も一つ質問していい?」と星宮君が私に聞く。
いいよ、と答えようとした時、
「下原さん、あと五分で面談開始なので教室移動お願いします。」
と先生が声をかけてきた。
あ、はい、わかりました…と先生に返しながら星宮君に目をやると、
いってらっしゃい、と手を振っている。
ごめん、と手を合わせて謝ってから、
荷物を持って教室を出た。
(私のばか、髪の色なんてどうでもいいじゃん)
そう思っても、仕方がない。
とりあえず今は面談に集中しないと、
と気を引き締めて先生の後をついていった。