* * *

 気がつくと、ルナは美しい花畑の真ん中に立っていた。青空がどこまでも続いている。

「ルナ!」

 向こうでハルが笑顔で手を振っている。

(ハルが呼んでる……)

 ルナはハルに向かって走り出した。花が散り、花びらが舞う。

 ハルのもとに辿り着くと、ハルは微笑みながらルナのことを抱き締めた。

「大好き。ボクが幸せにしてあげるからね」

 ルナはあまりに突然の事態に硬直した。恥ずかしくて、顔がどんどん赤くなるのを感じた。

「ハ……ハル……」

 ルナが抱き締め返そうとしたその時だった。



 ピカッ!ゴロゴロ……!



 急に雷が落ち、空が曇り始めた。

「お前は悪魔失格だ!」

 突然、背後から父の声がして振り返ると、父の悪魔王に渾身の力で殴られた。

「ぐはっ……!」

 ルナは殴られた勢いのままに、花畑に倒れ込む。

 ……雨が降り始めた。

 ルナが何とか立ち上がると、父が居たはずの場所に、ハルが立っていた。

 その表情は暗く、泣き腫らしていた。

「君は悪魔だったんだね」

 ハルは涙をこぼしながら、絞り出すように言った。

「ずっと隠してたんだね」

「ハル、それは……」

「大嫌いだ!」

 ハルは吐き捨てるようにそう言うと、ルナを置いてその場から走り去ってしまった。

「ハル……!」

 ルナは何度もハルの名前を呼んだが、ハルは2度と戻ってこなかった。

 ルナは土砂降りの中、1人立ち尽くしていた。