もう11月も半ば。翔北高校もいよいよ修学旅行だ。

「眠い……」

 新幹線の座席に座り、ルナはあくびをする。

 先日の手紙が原因で、不安のあまり、連日寝不足が続いていたのだ。

 事前の情報では、大天使の娘は確かにこの町に居るはずなのに、それらしい姿は見つからない。

 このまま自分は殺されてしまうのだろうか。

「何浮かない顔してるんだよ、ルナ」

 隣に座ていた景太が、ルナの頭を小突いた。

「修学旅行の真っ最中だろ?そんな顔してたらつまんないぞ」

「うん……ちょっと寝不足で……」

「楽しみで眠れなかったのか?ルナもまだまだ子どもだな」

 景太はそう言うとククッと笑う。

(そういうことじゃないんだけどな……)

 その楽しそうな様子に、ルナは苦笑いした。

「花里、黒崎、トランプやろーぜ」

「おう。いいぞ」

 後ろの席の、同じサッカー部員から声をかけられて、ルナ達は席を反対向きにする。

「渡辺、カード切って」

「ああ、任せな!」

 渡辺がカードを切り、全員に配る。じゃんけんの結果、ルナは一番最後の番だった。

「鳴海からな」

「あいよー」

 鳴海がカードを取り、ペアになったカードを捨てる。

「次、渡辺な」

 渡辺も同様にカードを取り、ペアを捨てる。

「次、花里だぞ」

「おう」

 景太も同じ手順でカードを取り……。



 ガクン



 単調な動作に眠気を誘われて、ルナは我慢できずに眠り込んでしまった。

 バサバサと手札が床に落ちる。その中にはジョーカーもあった。

「うおっ!?大丈夫か、黒崎!?」

 渡辺と鳴海は驚いた様子でルナを見た。

「なんか寝不足だったらしい」

 カードを拾いながら、景太は言った。

「寝かせといてやろうぜ」

 景太の言葉に、鳴海と渡辺は顔を見合わせて頷く。

「それもそうだな」

「気を取り直して……ババ抜き再開だ!」

 渡辺は全員のカードを集めて、もう一度山札を切る。

「これで勝ったやつ、3人に宇治抹茶スイーツ奢りな」

「えっ、勝ったやつなん?」

「負けた人じゃないのか?」

「おう!勝利の喜びをみんなに分けてやるんだよ。勝者の責任だろ!」

 そうワイワイしながら3人がババ抜きをする傍らで、ルナはすやすやと寝息を立てていた。