秋も深まってきて、いよいよ文化祭の季節だ。

 ルナ達のクラスは白雪姫の劇をやることになっている。今日のHRは誰が何をやるかの役割分担だ。

「はい、じゃあ白雪姫の役から。やりたい人、居る?」

 委員長が尋ねるが、誰も手を挙げない。主役だから緊張するのだろう。

「雨宮さんやれば?」

 突然、クラスの目立つ女子が言い出した。急に名前を出されて、百合は戸惑いの表情を浮かべる。

「え、いや、私は別に……」

「私もいいと思いまーす」

「あはは!ほら、やりなよ」

 言ってることは前向きだが、彼女達の目は全く笑っていなかった。

「何だか、嫌な感じですわ……」

 菫が小声で呟いた。ルナもその呟きに頷いて、百合のことを心配そうに見つめる。

(確かに……でも、どうして雨宮さんを……?)

「雨宮さん、どうですか?」

 司会をしている学級委員長が、百合に尋ねた。

「えっと、私は……」

 百合は困り果てて俯いた。それを見て女子達はニヤニヤと笑っている。

 そのおかしな雰囲気を壊したのは景太だった。

「俺がやる」

 景太はそう言って、堂々と立ち上がった。

「え、花里君が……?」

 景太は、戸惑う委員長に自信満々に頷く。

「おう。百合にできるなら俺にもできる」

 そうドヤ顔で言う景太に、クラス中が笑いに包まれた。

「お前、台詞覚えられるのかよ!」

「まぁ、面白いし良いんじゃないか?」

「マジ!?うち王子やりたい……」

「……じゃあ白雪姫は花里君で」

 苦笑いする委員長の言葉を聞き、書記が笑いを堪えながら黒板に花里景太の名前を書く。

「それじゃあ次、王子様を……」

「委員長、俺が指名して良いか?」

 景太に尋ねられ、学級委員長は目を丸くした。

「え、花里君がですか……?」

「ああ。俺が姫だし」

「まぁ、別に良いですけど……」

 委員長の同意が得られた景太は、真っ直ぐにルナの方を見つめた。

(……嫌な予感がする)

 そして、その嫌な予感は的中した。

「ルナ、お前が俺の王子だ」

「何で僕!?他にもいるでしょ!?」

 堂々と告げる景太に対して、ルナは声を荒げる。

 ルナは王子だけはやりたくなかったのだ。悪魔が王子様だなんて……ヨルが聞いたら大爆笑だ。

(流石に恥ずかしすぎる……!)

 景太は嫌そうに顔を顰めるルナに構わず、続ける。

「ほら、俺ら親友だし、大丈夫かなって……」

「何が!?」

「頼むよ、俺の王子になってくれよ!ほら、この通り!!」

 景太はそう言うと、体を90度に折り曲げて丁寧に頭を下げた。このままルナが渋り続ければ、土下座までしそうな勢いだ。

 それもまずいだろうと思い、ルナは渋々頷いた。

「……やります」

 すると、教室中から拍手が巻き起こった。

「いいぞー黒崎!」

「お前体育祭の時から最高だな!」

「花里君が姫で黒崎君が王子か……なんか面白くなりそう!」

 周囲の予想外の反応に、ルナは力が抜けてしまった。

「ルナ君の王子様、楽しみですわ!」

 傍らの菫も、目をキラキラさせながらルナを見た。

「藤堂さんまで……」

 ルナは先のことを考え、思わず溜息をついた。