9月になり、2学期が始まった。

 ルナが教室に入ると、自分の隣の席には1学期と同様に菫が座っている。

「おはよう、ルナ君」

 そう言って微笑む彼女はいつも通りだった。

「藤堂さん、おはよう」

 ルナは敢えて変に意識せず、普段通りに挨拶を返した。すると、菫もいつも通り柔らかく微笑み、朝のお喋りを始める。

「もうすぐ体育祭ですわね。ルナ君、足の調子はどうですの?」

「ああ、もう大丈夫だよ!体育祭に間に合って良かった」

 ルナは明るく笑った。骨折していた脚も、もう跡形もなく治ったのだ。少し試してみたが、走ったり跳んだりしても問題はない。

 まったく、悪魔の力のたまものだ。

「出場種目、選べるんでしたよね?ルナ君は何に出るんですの?」

「そうだな~……とりあえず玉入れとか、軽い種目にしようかな。」

 そう言っていると、背後から景太が急に肩を叩いてきた。

「お前、玉入れをなめるなよ」

「うわっ!景太……」

 突然の登場に、ルナは目を丸くした。景太は真面目な表情でルナを見つめると、真剣に語り出した。

「玉入れはな、玉を集める瞬発力、球を投げる腕力、更に籠を狙う正確性を必要とするハイレベルな競技なんだぞ。ケガが治ってすぐにやるような種目じゃない」

「そ、そっかぁ……」

「そういうことで、ルナは俺とリレーに出よう」

「え、リレーに……?」

 景太の真顔の圧力に、ルナは苦笑いしながら首を傾げた。

「いきなりリレーは重いかな……」

「大丈夫だって。お前クラスで1番足速かったし、ただ走るだけだろ。他にも……」

「他にも……?」

 ルナが聞き返すと、景太は得意気な顔で胸を張った。

「リレーの方が玉入れより格好いい」

 思ったよりも単純な理由を聞いて、ルナは力が抜けてしまった。

 景太らしい理由だといえばそうだが、別に自分は格好良さなんて求めていない。ただ、クラスの力になれればいい。そう思い、ルナは誘いを断ろうと口を開いた。

 しかし、その時。不意にクラスメイトの会話が耳に入ってきた。

「そういえば今年は来るのかな~南野女子の生徒」

「来るだろ~。だって去年も見に来てたし、今年も花里がいるしな」

「体育祭で俺らも格好いい所見せてさ、女の子達と仲良くなりたいぜ!」

 南野女子が翔北の体育祭を観戦しにくる……ということは、ハルも来るのだろうか。

(もしそうだったら……格好いい所見せたいな)

 ルナの脳裏に、先程の景太の言葉が蘇る。玉入れよりリレーの方が格好いい……か。

「……景太。僕リレーに出るよ」

 ルナは意を決して、景太に力強く答えた。

「よく言った!」

 景太はニカッと笑ってルナの肩を叩く。

「一緒に頑張ろうな」

 HRのチャイムが鳴り、生徒が続々と席に着いていく。

 体育祭に向けて、ルナはやる気十分だった。