パリーン!

 俺に触れた刀は体表を纏う魔力に耐えられず、刀身が粉々に砕け散る。陽の光を浴びてキラキラ輝きながら辺りに散らばっていく破片――――。

 は?

 武器を失い唖然とする男に、俺は瞬歩で迫った。

「武器屋は選ぼう!」

 俺はニヤッと笑いながら手の甲でパン! と、男の頭を小突いて意識を奪い、吹き飛ばす。

 と、同時に後ろから声が上がった。

「マジックキャノン!」

 振り向けば眩しく輝く魔法の球が吹っ飛んでくる。その輝きは、まるで小さな太陽のようだった。

 俺は手のひら全体に魔力を纏わせ、黄金色に輝かせると、その球を平手ではたき返す。

 ソイヤー!

 輝く球はそのまま、放った魔剣士に向かって一直線に光跡を描いた。 

「な、なぜだ!?」

 生まれて初めて魔法がはじかれる現場を見て、魔剣士は唖然としながら魔法をまともにくらった――――。

 ズン!

 激しい爆発が起こり、魔剣士は吹き飛んでいく。

 ぐはぁ!

 気絶し、もんどり打って転がっていく様は実に滑稽で、俺はクスッと笑ってしまった。

 あっという間に三人の男たちが戦闘不能になる。その光景は、まるで嵐が過ぎ去った後の惨状を思わせた。

 剣を構え皮鎧に身を包んだ四人目の男は、その圧倒的な力の差を唖然(あぜん)として見つめていた。そして、首を振りながらゆっくりと剣をしまうと両手を上げる。実に賢明な判断だろう。

「あれ? かかってこないんですか?」

 俺はニッコリと話しかける。

「こんなの……勝負になりませんよ……。棄権します」

 ガックリとうなだれる男の声には、敗北の苦さと同時に、強者への敬意が込められていた。

 戦いが終わり、三人の男たちが転がる空き地に静寂が戻ってくる――――。

 俺は深く息を吐き、自分の力を改めて実感した。強すぎることは罪なことである。転がる男たちを見下ろしながら俺は静かに首を振った。


      ◇


「一体どうしてくれるんだ!? 試合ができないじゃないか!」

 受付の男性は頭を抱え、天をあおぐ。その声には、計画が狂った焦りと怒りが混ざっていた。

「ごめんなさい。今日は決勝だけやればいいじゃないですか」

 俺は頭をかきながら苦笑する。

 男は俺をキッとにらむ、その目には非難の色が浮かんでいた。

「もうっ! そんな簡単に……。くぁぁぁ……。大会委員長に報告しないと!」

 男は駆け出して行ったが、途中でクルッと振り返って俺を指差し、叫ぶ。

「決勝はちゃんと闘技場でやってくださいよ!」

 なんだか本気で怒っている。悪いことしてしまった。

「善処します」

 俺はペコリと頭を下げる。段取りをぶち壊したのは申し訳ないとは思うが、因縁つけてきたのはあいつらだし、俺のせいじゃないのでは? と釈然としない思いが残った。

「あの……武器屋のマスターですよね?」

 棄権した男性が話しかけてくる。まだ若いその声には、畏敬の念が滲んでいた。

 持っている武器を鑑定してみると、俺が仕込んだ各種ステータスアップが表示された。どうやらお客さんだったようだ。その事実に、ほっとするような温かさを感じた。

「そうです。ご利用ありがとうございます」

 俺は自然と腰が低くなる。お客様は神様です。

「そんなに強いのになぜ……、商人なんてやってるんですか?」

 瞳に敬意を浮かべながら、心底不思議そうに聞いてくる。

 彼は理想を超えた強さを俺の中に見出したようだが、そんなはるか高みにいる俺が商人なんてやっていることを、全く理解できない様子だった。

「うーん、私、のんびり暮らしたいんですよね。あまり戦闘とか向いてないので」

「向いてないって……、さっきの技を見るに勇者様より強いですよね? もしかして勝っちゃう……つもりですか?」

 男は心配そうに聞いてくる。

「勝ちますよ……、勇者にはちょっと因縁(いんねん)あるので」

 俺はニヤッと覚悟の笑みを浮かべた。

「えっ!? 商人が勇者様に勝っちゃったらマズいですよ! 捕まりますよ?」

「分かってます。残念ですが、貴族が支配するこの国では貴族に勝つのはタブーです。でもやらんとならんのです」

 俺は目をつぶり、グッとこぶしを握った。

 彼は俺のゆるぎない信念を悟ると、大きく息をつく。

「なるほど……。素晴らしい剣をありがとうございました。また、どこかでお会い出来たらその時は一杯おごらせてください」

 右手を差し出す男の仕草には、敬意と親愛の情が込められていた。

「ありがとうございます。こちらこそご愛用ありがとうございます」

 俺は固く握手をする。その瞬間、二人の間に不思議な絆が生まれたような気がした。

「ご武運をお祈りしています」

 彼は深々と頭を下げ、会場を後にする。最後にもう一度頭を下げるその姿には、俺への期待と応援の気持ちが込められているように見えた。

 静寂が戻ってきた空き地で、俺は深く息を吐く。これから始まる決戦への覚悟と、商人としての穏やかな日々への郷愁が胸の中で交錯した。

 俺は静かに目を閉じ、風が頬を撫でるのを感じていた。