眩しい光の洪水に襲われ、俺は思わず目を瞑った。
う、うぅ！
手のひらで光を遮りながらゆっくりと目を開く。瞼の隙間から漏れる光が、徐々に視界を鮮明にしていく――――。
「こ、ここは……？」
上質な木の香気が漂う空間。刻みの深い木製キャビネットと落ち着いた色合いの机、青々とした観葉植物が清浄な空気を醸し出している。大きな丸形照明からは温かな光が溢れ、まるで外資系金融のオフィスのような洗練された空間だ。そして、その先にある大きな窓からは――――。
へっ！？
青空に向かって聳え立つ、朱色の巨大な鉄塔。四角い展望台から流れる優美な曲線は、まさしく東京タワー。あの特徴的なシルエットを見間違えるはずがない。
「と、東京タワー！ な、なんで！？」
驚きの声を上げた瞬間、自分の声の異変に気付く。高く澄んだ声は、もはや人間のものではなかった。戸惑いに駆られて手を見下ろすと、そこには桜色の肉球が！
「な、な、な、なんだこりゃ！」
慌てて手鏡に目を凝らす。映し出されたのは、まるでぬいぐるみのような柔らかな毛並みを持つ猫の姿。琥珀色の瞳には縦長の瞳孔が浮かび、深い煌めきを湛えていた。
自分の変貌に茫然としていると、部屋の奥から激しい声が響き渡る。
「誠！ また、ポカやったわね！」
振り向いた先には、懐かしい美奈先輩の姿。栗色の長い髪が優雅に揺れ、その美しい横顔は凛然とした気品を湛えている。あれから長い時を経たはずだが、ダンスサークル時代の輝きは失われていなかった。
会議テーブルの向こうで、先輩は一人の男性に憤怒の眼差しを向けていた。その男性は三十代半ばといったところか、冴えない風体で肩を落としていた。
「いや、ちょっと、誤解だって！」
「何が誤解よ！」
美奈先輩は机上のティッシュ箱を掴むと、容赦なく男性の頭を叩き始めた。その仕草には、かつて部室で見せた奔放な青春の残り香が漂う。
「痛い、痛い、やめてー！」
頭を抱えてテーブルに突っ伏す男性の姿は、まるで喜劇のワンシーンのような滑稽さだった。
久しぶりに目にする先輩の溌剌とした姿に、懐かしさが込み上げてきて思わず笑みがこぼれる。
しかし――――。
あのおてんば娘がこの世界の創造神……。その事実は、俺の理解の範疇を超えていた。創造神とは、荘厳で近寄り難い存在であるはず。しかし目の前で繰り広げられる光景は、まるで学生時代の延長のような喧騒に満ちていた。
俺がその矛盾に思いを巡らせていた時、耳に飛び込んできた言葉に全身が凍りつく。
「シャトル奪われて誰だかわからないって余程の間抜けだわよ！」
美奈先輩の一喝に、俺の心臓が鼓動を高める。その言葉は、まるで罪を暴く審判の声のように胸に刺さった。
「いや、だってきれいさっぱりデータ消されてるんだよ？」
「誰が消したか調べればいいじゃない！ あんたバカなの！？」
美奈は怒りを募らせ、ティッシュボックスで男性の頭を乱打する。その様子は学生時代と変わらない豪快さだった。
「だから今それやってるんだよ！」
「そんなのちゃっちゃとやんなさいよ！」
「はいはい……」
男性は渋々人差し指を空中でクルリと回し、空中に青く浮かび上がる画面を展開する。その指先には、疲れが滲んでいた。
（マズい……）
奪われたシャトルとは、間違いなく俺たちの一件に違いない。レヴィアは痕跡を消したようだが、この世界の管理者たちの目をどこまで欺けるのか。不安が心の中で渦巻く。
俺が冷や汗を流していると、一陣の春風のように、にこやかな女性が近づいてきた。
「みぃつけた！」
水色の髪が陽光を受けて煌めき、デニムのオーバーオールは少年のような闊達さを感じさせる。その下の白いシャツからは、豊満な膨らみが自然な弾力を持って主張していた。
「あなたが豊さんね、僕はシアン、よろしくねっ！」
その麗しい女性は、まるで子猫を抱くように俺を優しく抱き上げ、頬ずりをした。
にょわぁぁぁ！
頬ずりされる感触に、猫の本能としてのどを鳴らしそうになる。人としての意識と猫の感覚が混ざり合う不思議な感覚。この非現実的な状況に、夢か現かの境界が曖昧になっていく。
う、うぅ！
手のひらで光を遮りながらゆっくりと目を開く。瞼の隙間から漏れる光が、徐々に視界を鮮明にしていく――――。
「こ、ここは……？」
上質な木の香気が漂う空間。刻みの深い木製キャビネットと落ち着いた色合いの机、青々とした観葉植物が清浄な空気を醸し出している。大きな丸形照明からは温かな光が溢れ、まるで外資系金融のオフィスのような洗練された空間だ。そして、その先にある大きな窓からは――――。
へっ！？
青空に向かって聳え立つ、朱色の巨大な鉄塔。四角い展望台から流れる優美な曲線は、まさしく東京タワー。あの特徴的なシルエットを見間違えるはずがない。
「と、東京タワー！ な、なんで！？」
驚きの声を上げた瞬間、自分の声の異変に気付く。高く澄んだ声は、もはや人間のものではなかった。戸惑いに駆られて手を見下ろすと、そこには桜色の肉球が！
「な、な、な、なんだこりゃ！」
慌てて手鏡に目を凝らす。映し出されたのは、まるでぬいぐるみのような柔らかな毛並みを持つ猫の姿。琥珀色の瞳には縦長の瞳孔が浮かび、深い煌めきを湛えていた。
自分の変貌に茫然としていると、部屋の奥から激しい声が響き渡る。
「誠！ また、ポカやったわね！」
振り向いた先には、懐かしい美奈先輩の姿。栗色の長い髪が優雅に揺れ、その美しい横顔は凛然とした気品を湛えている。あれから長い時を経たはずだが、ダンスサークル時代の輝きは失われていなかった。
会議テーブルの向こうで、先輩は一人の男性に憤怒の眼差しを向けていた。その男性は三十代半ばといったところか、冴えない風体で肩を落としていた。
「いや、ちょっと、誤解だって！」
「何が誤解よ！」
美奈先輩は机上のティッシュ箱を掴むと、容赦なく男性の頭を叩き始めた。その仕草には、かつて部室で見せた奔放な青春の残り香が漂う。
「痛い、痛い、やめてー！」
頭を抱えてテーブルに突っ伏す男性の姿は、まるで喜劇のワンシーンのような滑稽さだった。
久しぶりに目にする先輩の溌剌とした姿に、懐かしさが込み上げてきて思わず笑みがこぼれる。
しかし――――。
あのおてんば娘がこの世界の創造神……。その事実は、俺の理解の範疇を超えていた。創造神とは、荘厳で近寄り難い存在であるはず。しかし目の前で繰り広げられる光景は、まるで学生時代の延長のような喧騒に満ちていた。
俺がその矛盾に思いを巡らせていた時、耳に飛び込んできた言葉に全身が凍りつく。
「シャトル奪われて誰だかわからないって余程の間抜けだわよ！」
美奈先輩の一喝に、俺の心臓が鼓動を高める。その言葉は、まるで罪を暴く審判の声のように胸に刺さった。
「いや、だってきれいさっぱりデータ消されてるんだよ？」
「誰が消したか調べればいいじゃない！ あんたバカなの！？」
美奈は怒りを募らせ、ティッシュボックスで男性の頭を乱打する。その様子は学生時代と変わらない豪快さだった。
「だから今それやってるんだよ！」
「そんなのちゃっちゃとやんなさいよ！」
「はいはい……」
男性は渋々人差し指を空中でクルリと回し、空中に青く浮かび上がる画面を展開する。その指先には、疲れが滲んでいた。
（マズい……）
奪われたシャトルとは、間違いなく俺たちの一件に違いない。レヴィアは痕跡を消したようだが、この世界の管理者たちの目をどこまで欺けるのか。不安が心の中で渦巻く。
俺が冷や汗を流していると、一陣の春風のように、にこやかな女性が近づいてきた。
「みぃつけた！」
水色の髪が陽光を受けて煌めき、デニムのオーバーオールは少年のような闊達さを感じさせる。その下の白いシャツからは、豊満な膨らみが自然な弾力を持って主張していた。
「あなたが豊さんね、僕はシアン、よろしくねっ！」
その麗しい女性は、まるで子猫を抱くように俺を優しく抱き上げ、頬ずりをした。
にょわぁぁぁ！
頬ずりされる感触に、猫の本能としてのどを鳴らしそうになる。人としての意識と猫の感覚が混ざり合う不思議な感覚。この非現実的な状況に、夢か現かの境界が曖昧になっていく。
