レヴィアは厳しい表情を崩さず、さらに言葉を重ねる。

「そうじゃ、お主がミスれば旦那が死に、我々全滅じゃ。必死に見抜け! あ奴はまだ戦闘に慣れてないから、きっと付け入るスキがあるはずじゃ」

 ドロシーの(ひとみ)に涙が(にじ)んだ。(ふる)える声で彼女は答えた。

「わ、私にできる事なんですか? そんなこと……」

 その姿を見て、俺の胸が痛む。ドロシーにそんな重責を負わせてしまって良いのだろうか? 

 しかし、レヴィアの眼差(まなざ)しは揺るがなかった。彼女はドロシーの目をじっと見つめ、熱を込めて言った。

「……。お主は目がいいし、機転も利く。自分を信じるんじゃ!」

 その言葉に、ドロシーの表情が僅かに和らいだ。しかし、まだ躊躇(とまど)いは消えない。

「信じるって言っても……」

「できなきゃ旦那が死ぬまでじゃ。やるか? やらんか?」

 レヴィアの言葉は厳しかったが、その眼差(まなざ)しには温かな(はげ)ましの色が宿っていた――――。

「死ぬ……」

 ドロシーはキュッと唇を結ぶ。そう言われたらもう選択肢などなかった。

 深く息を吸い、覚悟(かくご)を決めたように頷く。

「わ、分かりました……」

「ヨシ! では神殿でスタンバイじゃ!」

 ニヤッと笑ってサムアップするレヴィア。

 ドロシーは涙を(ぬぐ)いながらうなずいた。


      ◇


 神殿に転送されたドロシーは、大理石造りのがらんとした大広間をキョロキョロと見回した。壁沿いに幻獣の石像がズラリと並び、魔法のランプが揺らめいて不気味にその影を揺らしている。獅子(しし)麒麟(きりん)といった神獣たちの目が、まるで生きているかのように闇の中で光を帯びていた。

「そこに画面があるじゃろ?」

 レヴィアの声が神殿に響きわたる。

 確かに広間の中央に大きな画面が何枚か並び、宙に浮く椅子がゆらゆらと揺れていた。画面からは青白い光が放たれ、まるで異界への窓のよう。それぞれの画面には、この世界の様々な場所が映し出されている。街並み、森林、荒野――――そして戦場。

 ドロシーは駆け寄ると画面をのぞきこんだ。彼女の瞳に画面の光が映り込み、神々しい輝きを帯びる――――。

『はい、戦乙女(ヴァルキュリ)が見えます。どうやら……レヴィア様を探しているようです』

 ドロシーの声には緊張が滲んでいたが、それでもしっかりとしたやる気が感じられた。

「よし! その画面は自動的に戦乙女(ヴァルキュリ)を追尾しとるから、奴の動作をしっかり見るんじゃ。ワープする前には独特の姿勢を取るはずじゃから、それを見抜いて声で旦那に伝えるんじゃ!」

『は、はい……』

 戸惑いのにじむドロシーの返事に、俺は不安を覚えずにはいられなかった。