「もう戻りましょう」

 ハルがそう言って立ち上がる。
 僕はそんなハルを見上げて言う。

「さっき、聖亜がここに来たんだ。僕が連れてきた」
「えっ?」

 ハルが嫌そうに顔を歪める。

「なんで連れてくるんですか? ボク、あの人嫌いだって言いましたよね?」
「聖亜にはハルが見えないはずなのに。あいつ、ハルのほうを見て……」

 僕は一度言葉を切ってから、思い切って続ける。

「泣いてたんだ。ハルと同じように」
「え……」

 ハルが僕を見下ろしたまま、固まっている。
 僕はゆっくり立ち上がり、ハルの前に立つ。

「ハルが公園で見た、バスケの上手かった人って……聖亜なんじゃないの?」

 ハルは黙っている。

「ハルの大事な人って……聖亜なんでしょ?」

 僕から顔をそむけると、ハルはしばらく考え込んで、再び僕のほうを見た。

「違います」
「でもっ……」
「あいつはユズにひどいことしたやつですよ! そんなやつが大事なわけないです!」

 ハルが真っ赤な顔で怒鳴る。

「そんなわけ絶対ないから! 絶対嫌だから! ユズを傷つけたやつが大事だなんて……絶対思わないから!」

 そう叫ぶと、ハルが体育館を飛び出していく。

「あっ、ハル! 待って!」

 僕の声が体育館に響き、バスケ部の連中が首をかしげる。
 だけどそんなことはどうでもいい。
 僕はハルを追いかけて、全力で走った。