西沢さんのご両親と晩ご飯を食べたり、2人でカラオケをした数日後の放課後。
『ごめんね佐々木くん、今日は急に友達にお手伝いを頼まれてて一緒に帰れないの』
西沢さんに申し訳なさそうに言われた僕が、久しぶりに一人で帰るべく廊下を歩いていると、
「ちょっと佐々木、顔貸しなさいよ」
突然僕は、行く手を遮るように真っ正面に立った女の子に呼び止められた。
「えっと、いいけど、なに?」
相手はクラスメイトの東浜奈緒さん。
初めて会ったその日にみんなでカラオケに行ける系の、コミュ力が高いカースト1軍の女子だ。
もちろん話したことは――どころか挨拶をしたことすらない。
西沢さんと付き合うようになってから時々視線が合うことがあるくらいで。
だから今こうやって声をかけられたことに、なんとなく不穏なものを感じざるを得ない僕だった。
「ここじゃちょっと。ついてきてよ」
「う、うん」
その上から見下ろすような威圧的な態度にとても嫌とは言えず、僕はやや気後れしながら頷く。
(なんだろ? 東浜さんとは一度も話したことなかったはずだけど何の用なのかな?)
僕はそのまま東浜さんに連れられて校舎の屋上へと向かった。
屋上は西沢さんに告白された思い出の場所だ。
入学して2カ月も経ってないのに屋上で2回も女の子とこっそり話すなんて、ここって僕となにか縁でもあるんだろうか。
先輩たちに呼び出されたのも屋上だったし。
僕が無防備にもそんなことを考えていると、東浜さんは屋上に着くなりこう言った。
「単刀直入に言うけど、あんたなんかが西沢彩菜と付き合うなんて分不相応なのよ。あの子のことをほんとに大事に思ってるなら身を引きなさい」
(これはまたもろに言って来たな……)
「西沢さんとのことは東浜さんには関係ないと思うんだけど」
だけどあまりにストレートに言われてしまい、上位カーストたちには笑顔で譲ることには慣れている僕も、さすがについムッとなって言い返してしまう。
そもそも東浜さんと西沢さんは特に仲がいいわけじゃないはずだ。
所属グループは違うし、同じクラスなのに2人が話しているのを見たこともない。
なのになんで東浜さんが、僕と西沢さんの仲にわざわざ口出ししてくるんだろうか?
「あるわよ」
「あるってなにがさ」
「目障りなのよね」
「目障りって……それはさすがにひど過ぎない?」
あまりに自分勝手で自己中な意見だと思うんだけど。
だけど東浜さんは僕の反論を全く意に介することなく言葉を続ける。
「あのさ、佐々木。あんたじゃあの子にまったく釣り合ってないって、それくらいはわかるでしょ?」
「それは……」
わからない――とは言えなかった。
「あんたみたいな取り柄のない陰キャが、学園のアイドル西沢彩菜と付き合うなんて100年早いのよ」
それでも特に親しいわけでもない相手にここまで言われてしまったら、僕だってカチンとくるわけで。
「東浜さんに西沢さんの何がわかるって言うのさ?」
「あんたこそあの子の何がわかるって言うの? 昔のあの子のことも知らないくせに」
「え――?」
「はん! やっぱり聞いてないんだ! 結局あんたらってその程度の仲なんだよね」
「き、聞いてないって何をさ? 悪いんだけど、東浜さんがなんの話をしてるのか僕にはさっぱりなんだ」
「ふっ……私ってさ、小学校の頃は神戸にいたの」
東浜さんは一瞬、小馬鹿にしたように鼻で笑うと唐突に昔話を語り始めた。
「はぁ……」
東浜さんの意図がよくわからなかった僕は、それに曖昧に相づちを打つ。
(神戸って兵庫県の県庁所在地だよね? 小学校の地理で覚えた気がする)
「その時に同じ学年にすごく可愛い子がいたの。私は同じクラスになったことがなかったから話したことはなかったけど。それでもどんな子か知っているくらいに可愛いくて有名な子だった」
「それが……なにさ?」
急に東浜さんが小学校時代に神戸にいた話をされても、僕としては反応に困るんだけど。
『ごめんね佐々木くん、今日は急に友達にお手伝いを頼まれてて一緒に帰れないの』
西沢さんに申し訳なさそうに言われた僕が、久しぶりに一人で帰るべく廊下を歩いていると、
「ちょっと佐々木、顔貸しなさいよ」
突然僕は、行く手を遮るように真っ正面に立った女の子に呼び止められた。
「えっと、いいけど、なに?」
相手はクラスメイトの東浜奈緒さん。
初めて会ったその日にみんなでカラオケに行ける系の、コミュ力が高いカースト1軍の女子だ。
もちろん話したことは――どころか挨拶をしたことすらない。
西沢さんと付き合うようになってから時々視線が合うことがあるくらいで。
だから今こうやって声をかけられたことに、なんとなく不穏なものを感じざるを得ない僕だった。
「ここじゃちょっと。ついてきてよ」
「う、うん」
その上から見下ろすような威圧的な態度にとても嫌とは言えず、僕はやや気後れしながら頷く。
(なんだろ? 東浜さんとは一度も話したことなかったはずだけど何の用なのかな?)
僕はそのまま東浜さんに連れられて校舎の屋上へと向かった。
屋上は西沢さんに告白された思い出の場所だ。
入学して2カ月も経ってないのに屋上で2回も女の子とこっそり話すなんて、ここって僕となにか縁でもあるんだろうか。
先輩たちに呼び出されたのも屋上だったし。
僕が無防備にもそんなことを考えていると、東浜さんは屋上に着くなりこう言った。
「単刀直入に言うけど、あんたなんかが西沢彩菜と付き合うなんて分不相応なのよ。あの子のことをほんとに大事に思ってるなら身を引きなさい」
(これはまたもろに言って来たな……)
「西沢さんとのことは東浜さんには関係ないと思うんだけど」
だけどあまりにストレートに言われてしまい、上位カーストたちには笑顔で譲ることには慣れている僕も、さすがについムッとなって言い返してしまう。
そもそも東浜さんと西沢さんは特に仲がいいわけじゃないはずだ。
所属グループは違うし、同じクラスなのに2人が話しているのを見たこともない。
なのになんで東浜さんが、僕と西沢さんの仲にわざわざ口出ししてくるんだろうか?
「あるわよ」
「あるってなにがさ」
「目障りなのよね」
「目障りって……それはさすがにひど過ぎない?」
あまりに自分勝手で自己中な意見だと思うんだけど。
だけど東浜さんは僕の反論を全く意に介することなく言葉を続ける。
「あのさ、佐々木。あんたじゃあの子にまったく釣り合ってないって、それくらいはわかるでしょ?」
「それは……」
わからない――とは言えなかった。
「あんたみたいな取り柄のない陰キャが、学園のアイドル西沢彩菜と付き合うなんて100年早いのよ」
それでも特に親しいわけでもない相手にここまで言われてしまったら、僕だってカチンとくるわけで。
「東浜さんに西沢さんの何がわかるって言うのさ?」
「あんたこそあの子の何がわかるって言うの? 昔のあの子のことも知らないくせに」
「え――?」
「はん! やっぱり聞いてないんだ! 結局あんたらってその程度の仲なんだよね」
「き、聞いてないって何をさ? 悪いんだけど、東浜さんがなんの話をしてるのか僕にはさっぱりなんだ」
「ふっ……私ってさ、小学校の頃は神戸にいたの」
東浜さんは一瞬、小馬鹿にしたように鼻で笑うと唐突に昔話を語り始めた。
「はぁ……」
東浜さんの意図がよくわからなかった僕は、それに曖昧に相づちを打つ。
(神戸って兵庫県の県庁所在地だよね? 小学校の地理で覚えた気がする)
「その時に同じ学年にすごく可愛い子がいたの。私は同じクラスになったことがなかったから話したことはなかったけど。それでもどんな子か知っているくらいに可愛いくて有名な子だった」
「それが……なにさ?」
急に東浜さんが小学校時代に神戸にいた話をされても、僕としては反応に困るんだけど。