「こんばんは佐々木くん。それと初めまして、今日は急に来てもらってごめんなさいね」

 西沢さんのお父さんも合流して3人になった僕たちが家に着くと、すぐに西沢さんのお母さんが出迎えてくれた。
 西沢さんによく似た顔つきの綺麗なお母さんだった。

「いえいえそんな、滅相もありません。晩ご飯にご招待してもらってすごく嬉しいです」

「ふふっ、そんなに緊張しないでいいわよ、っていうのも無理な話よね。もう少ししたら晩ご飯の用意ができるから、それまでリビングで待っててもらえるかしら?」

「わ、わかりました」

「じゃあわたし着替えてくるから、ちょっとだけ待っててね。すぐ来るから」

「う、うん」
 西沢さんとお父さんが着替えに行って、お母さんは食事の用意をしてる。

 なので僕が一人で緊張と不安で胸をいっぱいにしながら、リビングのソファに座って待っていると。
 とてとてと小さな足音がして白黒の猫がひょこっと顔を出した。

 猫は『なんじゃこいつは?』って感じで、不思議そうに僕の顔を見上げてくる。

(この白黒の模様、たしか前に写真を見せてもらったちび太だよね?)

「チュッチュッチュ、ちび太~、おいで~」
 特にすることもないしせっかくの機会なので、猫なで声を出して呼んでみた。

 ちび太は最初こそ僕の様子をうかがっていたものの。
 人畜無害だと判断したのかすぐに足元にやってきて身体を何度か擦り付けると、ぴょんと僕の太ももに飛び乗ってくる。

(猫って人見知りするから飼い主以外には懐かないって聞いてたけど、ちび太は人懐っこい子なんだね)

 僕が頭や背中をそっと優しく撫でてあげると、ちび太は目を細めてゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らし始める。
 そしてついには僕の太ももの上でどっしり腰を落ろすと、ペロペロと自分の手足や身体を舐めて毛づくろいをし始めた。

 そんなちび太をなんとはなしに撫でていると、

「お待たせ~」
 私服に着替えた西沢さんがリビングへと戻ってきた。

「えへへ、どう、似合うかな?」

 西沢さんは僕の目の前でクルッと回って聞いてくる。
 遠心力で膝上のフレアスカートがふわっと浮き上がって、西沢さんの真っ白な太ももがあらわになってしまい、僕は慌てて目を逸らす。

「う、うん。すごく似合ってて可愛いと思うよ」
「ありがと♪ ってあれ? ちび太が佐々木くんの膝の上でまったりしてる」

「なんだか懐かれちゃったみたいでさ。ちび太はあんまり人見知りしない猫なんだね」

「ううん、全然そんなことないよ? お隣さんが来てもビビって2階に逃げてく超人見知りっ子だもん。ちび太が初対面の人にこんなに懐くのを見たの、わたし初めてかもだし」

「あれ、そうなんだ? とてもそんな風には見えなかったけど」

「さすが佐々木くん、ちび太にも一発で気に入られたってことだよね」
「そうなるのかな?」

「ねーちび太、ちび太も佐々木くんが優しいのわかるんだよねー、あ痛っ!?」

 僕の膝の上でくつろいでいたちび太が、頭を撫でようと手を伸ばした西沢さんにまさかの猫パンチをお見舞いした。

「だ、大丈夫、西沢さん!?」
 見ると西沢さんの人差し指にうっすらと赤い線が入っている。

「ひっかかれちゃった……」
「こらちび太、西沢さんは飼い主なんだからおいたしちゃだめだからな?」

 にゃ~。
 ちび太は甘えたように鳴くと、甘えたように僕のお腹に頭をこすりつけてくる。

「なんか、ちび太が佐々木くんを自分のものだって思ってるみたいなんだけど……」
「あははは……」

「うぅっ、まさか身内にライバルがいたなんて……」


 その後、しばらくちび太を撫でながら隣に座った西沢さんと話していると、着替えたお父さんがやってきて。
 ついに西沢さんのご両親との晩ご飯が始まった。