「好きな食べ物は、昔から玉子焼きが好きなんだ。しょっぱいのじゃなくて甘いやつ。甘すぎるのは苦手だけど」
「ふんふん、佐々木くんは甘い玉子焼きが好きと。でも甘すぎるのは苦手と。結構甘党だったりする?」
「実はね」
「えへへ、わたしと一緒だね。他には何かある?」
「あとはウィンナーとか唐揚げとかハンバーグかな――ってこれは誰でも好きだろうけど」
「どれも人気のおかずランキングの定番だもんね」
「逆に嫌いなものは特にないかな。それなりに何でも食べられる感じ。あ、ごめん1つだけ。レバーは嫌いだった、それも大嫌いなレベル。レバニラ炒めとかまったく食べられないんだ」
「レバーかぁ……実はわたしもすごく苦手なんだよね。口に入れた瞬間にウッてなっちゃうの」
苦笑いしながら同意してくれる西沢さん。
「西沢さんも? じゃあ小学校の給食で出た時とか食べるのがすごく大変じゃなかった?」
「うん、すっごく大変。わたしもう必死に鼻をつまんで食べてたもん。それでも無理なら、牛乳で無理やり流し込んだりとかしちゃってた。こんな感じで」
鼻をつまみながら、目をぎゅっとつぶって我慢する演技を見せる西沢さん。
ちょっとコミカルな姿もとても可愛いなぁ。
「あははは、すごくわかる。あれってさ、なんであんなに臭くて美味しくないもの食べさせるんだろうね? せめてもうちょっと料理の仕方をどうにかしてくれたらいいのに」
「ほんと不思議だよね。臭いのは下処理で臭い消しをちゃんとしてないからだろうし、あれじゃあレバーを嫌いな子供が増えるだけだよ。わたしとか佐々木くんとかみたいに」
「だよね、謎だよね」
教育委員会の偉い人に言いたい。
一度でいいから給食のレバーを食べてみて?
2度と食べたくなくなるから。
「でもでも、これでおおむね佐々木くんの好き嫌いはわかりました」
なにがそんなに重要なのかはわからないけど、西沢さんはふんふんとなにやらとても納得のご様子だった。
もしかしてあれかな、占いに使うのかな?
好きな男子の好物で相性を占うとかありそうだもんね。
女の子は占い好きだってよく聞くし。
ちなみに僕のこの推測はどうしようもないくらいに完全無欠に外れていて。
本当のところは西沢さんが明日お弁当を作ってきてくれるからだったんだけど。
悲しいかな、恋愛スキル皆無の僕はそんな発想にはまったく至らなかった。
まさか女の子が僕のためにお弁当を作ってきてくれるだなんて、そんなこと非モテ底辺男子には思いもよらないわけである。
それはそうとして。
「西沢さんは? レバー以外に好き嫌いはあるの?」
好き嫌いの話題の流れで、今度は僕が西沢さんに聞き返した。
聞かれたことと同じ内容を相手に聞き返す。
話し上手な西沢さんと話しながら、西沢さんがどんな話題の振り方をしているかを必死に観察して、ようやっと僕が獲得した会話スキル(レベル1)だった。
おかげで屋上にいた頃よりも少しだけ会話が弾んでいる気がする――ようなしないような?
「わたしは肉じゃがが好きかな。味の染みたじゃがいもや糸こんにゃくが、昔から大好きなんだぁ」
「うんうん、味の染みた肉じゃがとかおでんって、すごく美味しいよね」
「あとは嫌いってほどでもないんだけど、脂身は苦手かな。脂っこいものは全般的にあんまり得意じゃないの」
「それはそれでヘルシーで健康的でいいんじゃないかな」
「どっちかっていうと単に好き嫌いかなって思うんだけど、結果的にはヘルシーだからラッキーだよね。ダイエットで油っぽいものも無理して我慢しなくていいし」
「あ、西沢さんもダイエットとかしてるんだ?」
「え、あ、えっと、うんと、それなりには……?」
ダイエットしていることを僕に知られたのが恥ずかしかったのか、顔を赤らめる西沢さん。
「そうなんだね」
この話はここで終わりにした方がいいということは、恋愛経験値が限りなくゼロの僕でも分かった。
だから今までとは逆にこの話題を膨らませないように口をつぐんだんだけど、
「佐々木くんはもっと痩せてるほうが好み? 学校にもモデルみたいに細くて綺麗な子いるもんね、バレー部の子とかすごくスラッとしてるし」
西沢さんはとても不安そうな表情で聞いてくるのだ。
「健康的な今の――今が……い、今の西沢さんがいいと思う!」
だから僕は思っていることを言葉にした。
こんなことを言うのはすごく恥ずかしかったんだけど頑張った。
すごく頑張った。
「じゃあ絶対に今の体形キープするね」
「あ、えっと、そんな厳しくダイエットしなくても、少しくらいぽっちゃりしても僕は全然いいと思うんだけど……」
「それはだめ、油断は大敵だもん。ダイエットは常在戦場なんだから」
「そ、そこまでなの?」
僕はもやし体形でダイエットとは縁がないため、その辛さを実際に経験したことはない。
逆にもっとたくさん食べろと言われることの方が多かったりする。
「そこまでなの。それに一度逃げたら癖になっちゃうと思うから。甘いものの誘惑ってすごいんだもん」
僕のために並々ならぬやる気を見せる西沢さん。
そんな西沢さんを見て、少しでも釣り合う男になれるように僕も今日から少しずつ筋トレをしようかなと――そんなことを僕は思ったのだった。
そんな西沢さんとの楽しい楽しい帰り道はしかし、駅前でお開きとなる。
西沢さんの家は駅の向こう側の住宅街にあって、高校までは徒歩通学なのだそうだ。
僕はここからJRで3駅向こうなので、だからここでお別れなのだった。
「ふんふん、佐々木くんは甘い玉子焼きが好きと。でも甘すぎるのは苦手と。結構甘党だったりする?」
「実はね」
「えへへ、わたしと一緒だね。他には何かある?」
「あとはウィンナーとか唐揚げとかハンバーグかな――ってこれは誰でも好きだろうけど」
「どれも人気のおかずランキングの定番だもんね」
「逆に嫌いなものは特にないかな。それなりに何でも食べられる感じ。あ、ごめん1つだけ。レバーは嫌いだった、それも大嫌いなレベル。レバニラ炒めとかまったく食べられないんだ」
「レバーかぁ……実はわたしもすごく苦手なんだよね。口に入れた瞬間にウッてなっちゃうの」
苦笑いしながら同意してくれる西沢さん。
「西沢さんも? じゃあ小学校の給食で出た時とか食べるのがすごく大変じゃなかった?」
「うん、すっごく大変。わたしもう必死に鼻をつまんで食べてたもん。それでも無理なら、牛乳で無理やり流し込んだりとかしちゃってた。こんな感じで」
鼻をつまみながら、目をぎゅっとつぶって我慢する演技を見せる西沢さん。
ちょっとコミカルな姿もとても可愛いなぁ。
「あははは、すごくわかる。あれってさ、なんであんなに臭くて美味しくないもの食べさせるんだろうね? せめてもうちょっと料理の仕方をどうにかしてくれたらいいのに」
「ほんと不思議だよね。臭いのは下処理で臭い消しをちゃんとしてないからだろうし、あれじゃあレバーを嫌いな子供が増えるだけだよ。わたしとか佐々木くんとかみたいに」
「だよね、謎だよね」
教育委員会の偉い人に言いたい。
一度でいいから給食のレバーを食べてみて?
2度と食べたくなくなるから。
「でもでも、これでおおむね佐々木くんの好き嫌いはわかりました」
なにがそんなに重要なのかはわからないけど、西沢さんはふんふんとなにやらとても納得のご様子だった。
もしかしてあれかな、占いに使うのかな?
好きな男子の好物で相性を占うとかありそうだもんね。
女の子は占い好きだってよく聞くし。
ちなみに僕のこの推測はどうしようもないくらいに完全無欠に外れていて。
本当のところは西沢さんが明日お弁当を作ってきてくれるからだったんだけど。
悲しいかな、恋愛スキル皆無の僕はそんな発想にはまったく至らなかった。
まさか女の子が僕のためにお弁当を作ってきてくれるだなんて、そんなこと非モテ底辺男子には思いもよらないわけである。
それはそうとして。
「西沢さんは? レバー以外に好き嫌いはあるの?」
好き嫌いの話題の流れで、今度は僕が西沢さんに聞き返した。
聞かれたことと同じ内容を相手に聞き返す。
話し上手な西沢さんと話しながら、西沢さんがどんな話題の振り方をしているかを必死に観察して、ようやっと僕が獲得した会話スキル(レベル1)だった。
おかげで屋上にいた頃よりも少しだけ会話が弾んでいる気がする――ようなしないような?
「わたしは肉じゃがが好きかな。味の染みたじゃがいもや糸こんにゃくが、昔から大好きなんだぁ」
「うんうん、味の染みた肉じゃがとかおでんって、すごく美味しいよね」
「あとは嫌いってほどでもないんだけど、脂身は苦手かな。脂っこいものは全般的にあんまり得意じゃないの」
「それはそれでヘルシーで健康的でいいんじゃないかな」
「どっちかっていうと単に好き嫌いかなって思うんだけど、結果的にはヘルシーだからラッキーだよね。ダイエットで油っぽいものも無理して我慢しなくていいし」
「あ、西沢さんもダイエットとかしてるんだ?」
「え、あ、えっと、うんと、それなりには……?」
ダイエットしていることを僕に知られたのが恥ずかしかったのか、顔を赤らめる西沢さん。
「そうなんだね」
この話はここで終わりにした方がいいということは、恋愛経験値が限りなくゼロの僕でも分かった。
だから今までとは逆にこの話題を膨らませないように口をつぐんだんだけど、
「佐々木くんはもっと痩せてるほうが好み? 学校にもモデルみたいに細くて綺麗な子いるもんね、バレー部の子とかすごくスラッとしてるし」
西沢さんはとても不安そうな表情で聞いてくるのだ。
「健康的な今の――今が……い、今の西沢さんがいいと思う!」
だから僕は思っていることを言葉にした。
こんなことを言うのはすごく恥ずかしかったんだけど頑張った。
すごく頑張った。
「じゃあ絶対に今の体形キープするね」
「あ、えっと、そんな厳しくダイエットしなくても、少しくらいぽっちゃりしても僕は全然いいと思うんだけど……」
「それはだめ、油断は大敵だもん。ダイエットは常在戦場なんだから」
「そ、そこまでなの?」
僕はもやし体形でダイエットとは縁がないため、その辛さを実際に経験したことはない。
逆にもっとたくさん食べろと言われることの方が多かったりする。
「そこまでなの。それに一度逃げたら癖になっちゃうと思うから。甘いものの誘惑ってすごいんだもん」
僕のために並々ならぬやる気を見せる西沢さん。
そんな西沢さんを見て、少しでも釣り合う男になれるように僕も今日から少しずつ筋トレをしようかなと――そんなことを僕は思ったのだった。
そんな西沢さんとの楽しい楽しい帰り道はしかし、駅前でお開きとなる。
西沢さんの家は駅の向こう側の住宅街にあって、高校までは徒歩通学なのだそうだ。
僕はここからJRで3駅向こうなので、だからここでお別れなのだった。