そして僕はこの瞬間に確信をした。

(ああこれはドッキリだな)

 いくら学校カーストの底辺をうろつく僕とはいえ、まさか西沢さんが本当に僕のことを好きだとか、そんなありえない妄想をするほど馬鹿ではないのだ。

 でも西沢さんがこんな茶番を率先して企画するわけがないから、強引に告白役をやらされちゃったに違いない。
 人のいい西沢さんのことだ、きっと断り切れなかったんだろう。

 となれば西沢さんの名誉のためにも、ここはちゃんと告白にOKして勘違い系男子くんになるところまで、僕は僕に科せられたロールプレイを全うするべきだろう。

 それと正直なところ、嘘でもいいから西沢さんに告白されたことに、すごく舞い上がっちゃってる自分がいた。

 嘘だとわかっていても胸はドキドキと高鳴っちゃってるし。
 自分の顔が嬉しさのあまりにやけてしまっているのもわかっている。

 だってアイドルみたいに可愛い女の子から告白されて、舞い上がらない底辺男子高校生なんていないでしょ?
 西沢さんってばほんとに可愛いんだもの。

 それに、だ。
 少なくとも今回の件で、僕は西沢さんに僕って人間を知ってもらえたのだ。

 これからは西沢さんと時々話したりしちゃうかもだし、みんなで遊びに行ったりする時についでで僕も誘ってもらえるようになるかもしれない。

 友達がたった1人しかいない現状の高校生活と比べたら、それはとても魅力的なことのように僕には思えた。

 だから僕は答えた、

「いいよ、僕みたいなのでよかったら喜んで付き合うよ」

 ――と。

「ほんと? よかったぁ……」

 僕の返事を聞いてほっと安心したように頭をあげた西沢さんの目には、うっすらと涙が溜まっていた。

 感極まったって感じのその表情に、ううっ、本格的にドキドキしてきた……思わず本気の告白だと勘違いしそうになっちゃうよ。

 こんなに可愛くて優しくておしとやかで男女問わず好かれてる西沢さんと、こうやって話すことができたのだ。

 引力1/6で高く跳ねる月のウサギごとく、心がぴょんぴょんしてきたなぁ……。

「…………」

 そんなことを考えながら僕は待っていた、物陰からクラスメイト達が出てくるのを。
 おそらく1軍メンバーあたりが「ウェーイ!」とはやし立てるように出てくるに違いない。

 そこで僕は、ドッキリも見抜けずに分不相応にも西沢さんから本気で告白されたと勘ちがいした情けないピエロとして振る舞うことで、彼らからピエロ佐々木として認知してもらうのだ。

 さぁ早く来い。
 心の準備は――うんまぁなんとかできてると思う。

 帰ったら多分泣くけど、それでも心構えができてる分だけ明日はちゃんと学校にこれる程度だと思うから。

 それに照れる西沢さんやドジっ子な西沢さんを見ることができたし、それだけでも下層カースト男子には大きすぎるご褒美じゃないだろうか。
 というか2人っきりで西沢さんと告白ごっこをしちゃったってすごくない?

 そういうわけだったので、もはや僕に思い残すことはなかった。

 だからさぁ早くネタばらしカモン!
 最後に大げさに驚いて笑われるところまでが僕の役目だ!

 だって言うのに。

「…………」

 あれ?
 ウェーイ!が来ないね?
 ドッキリのタイミングが遅いんだけど、なにしてるのかな?

「…………」

 ううっ、まだ?
 西沢さんが僕をうるんだ瞳で見つめているんだけど?

「…………」

 ねぇまだ? まだ出てこないの?
 さすがにちょっと遅くない?
 段取り悪いよ?
 この状況でどうしたらいいかなんて僕まったくわからないから早くしてよね?

 僕はドッキリのネタばらしを待って、なにをするでもなくその場にたたずんでいた。

「じゃあ佐々木くん、今日は一緒に帰ろうね。佐々木くんとお話しして佐々木くんのこともっと知りたいの」

「えっ!?」

 だからボクは西沢さんにそう言われて、ひどく驚いてしまったのだ。