「佐々木くんってお昼はいつもパンか学食だよね? お弁当作ってきたんだ。一緒に食べようよ」

 スクールカーストの底辺を生きる僕の席までやってきた学園のアイドル西沢さんが、女の子が食べるには明らかに大きすぎるお弁当袋を見せながら微笑んできた。

「えっ、お弁当を作ってきてくれたの? 僕のために?」

「昨日ほら、好きな食べ物と嫌いな食べ物を聞いたでしょ?」

「そう言えば聞かれたね。もしかしなくてもお弁当のためだったんだね! ありがとう」

「えへへ、そうだったんだ」

 西沢さんがふんわり柔らかくはにかんだ。

「早起きしたって言ってたけどもしかして――」

「男の子にお弁当を作るのは初めてだったので、それなりに気合を入れましたから」

 あ、西沢さんがちょっと得意げな顔をしてる。
 ふふん、って感じだ。

 そんな少し子供っぽい顔もまたすごく魅力的で可愛くて、お弁当を作ってきてくれたってことも相まって、僕はもう心が幸せの2文字で溢れてしまいそうだった。

「でも2人分なんて大変だったでしょ?」

「量が増えるだけだから実はそうでもなかったんだけどね。どちらかって言うと味付けを失敗しないように微調整するのに時間がかかった感じかなぁ」

「やっぱり時間がかかってるよね。ありがとう、本当に嬉しいよ」

「わたしも佐々木くんが喜んでくれて嬉しいな。頑張って早起きした甲斐がありました」

 そんな風に、早起きしてお弁当を作ってくれた西沢さんに、僕は感謝の気持ちを伝えていたんだけど――。

 そこでクラスメイトのほとんど全員の視線が、僕と西沢さんに向けられていることに気が付いた。
 誰も彼もが驚いたように僕たちのことを見つめている。

 うっ、そりゃあそうだよね。

 学園のアイドルと呼ばれ、知らない生徒はいないであろう西沢彩菜が、スクールカースト底辺の冴えない男子と朝から仲良さそうに話しているだけでなく、なんとお弁当まで作ってきて一緒に食べようと言ったのだから。
 
「えっと、今日は天気もいいし、中庭にでも行かない?」

 そんな微妙な空気だったので、このまま教室で一緒に西沢さんの手作り弁当を食べるのは恥ずかしすぎて精神が持たなさそうで、だから僕はやや小声で場所の移動を提案する。

 それで西沢さんもやっと周囲の視線を集めていることに気が付いたのか、

「はうっ、みんな見てる……い、行こっ?」

 一気に顔を真っ赤にすると、僕の手を取って教室を出ていこうとする。

 手を繋いだことでよりいっそう周囲の視線を集めてしまってるんだけど、今の西沢さんはそこまでは思い至っていないみたいだった。

 スクールカースト底辺に位置する冴えないモブ男子。

 そんな冴えない僕にどうして、西沢さんのような学園のアイドルとまで呼ばれる可愛い女の子が、手作りのお弁当を作ってきてくれるようになったのか。

 話は少しだけ(さかのぼ)る――