「一番前のおっさんサイリュームの振り方ヤバかったよね」
「あぁ、いたいた」
「あぁいうのって、財布の中身だけ置いて居なくなればいいのよ」
「ですよね」
「視線合わすか悩んだけど、……軽くウインクしといたけどね」
「まじ?レミやばくない?」
「メイク落としてウイッグ外せば判んないって」
「レミの変装パッないもんね」
「何それ嫌味?」
「いやいや、黒髪綺麗って話じゃない、ねぇ」
「そうそう」
「校則が厳しいから仕方なく染めてないの、カスはいいわね校則ゆるくて金髪OKとかどんだけFランなんだか……」
「地毛なんだけど……」
「カスなんか言った?」
「なんでもない」
「でさぁ、そいつ……」
「ばかじゃんそいつ、……」
「……なんだって、やばいよね……」

誰も歌うことのないカラオケルームのテーブルの上にはスナック菓子やフライドポテト、ピザの破片が皿を汚し、誰かが口をつけていたであろうグラスの中身は、氷が解けて薄くなり、元が何だったのかよくわからない状態になっています。
きっと、一番手前にあるグラスが私の頼んだオレンジジュースだと思い手を伸ばしました。

「そうそう次のライブなんだけどさ」

メンバーがきゃいきゃい騒いでいる中静かにマネージャーの八千草シホさんが話し始めました。
なんだかいつもの口調と違うシホさんの声に違和感を感じたメンバーは話をやめて彼女の方に顔を向けました。
「センター変えてみようかと思うんだ」
「「「「えっ」」」」
「……」
「ぇ……」

「今度の新曲はのデモは聞いているわよね……アップチューンだし、間にラップもあるし、今までのトゥーラブの爽やかなイメージとは少し違う感じにしたくて、それでね立ち位置を少し変えようかと思うの」
みんなシホさんの次の言葉が気になって、彼女の唇を凝視しました。
ゴクッ、誰かの唾を飲む音が聞こえた気がしました。

「センターにカスミ、東雲(しののめ)カスミ、今までセンターだったレミは右から二番目に入って頂戴」

「「嘘」」
私の思わず漏れた言葉が、偶然にもレミと被った。