どうせまた、なにか嫌なことがあったんだろうな。
横顔をチラッと盗み見ると、頬に泣いたあとがついている。
瞳についた残りの涙の雫を指でそっと拭う。
「んっ……」
すると、眉間にシワを寄せて閉じていた瞼がゆっくりと開かれる。
そして、そのままゆっくりと俺をとらえる。
「……せ、な?……来てくれたんだ」
酔っているのか、少し赤くなった頬をふにゃっとしながら俺に微笑む。
普段はおとなっぽいのに、お酒をのむとすごくこどもになる。
いつもは俺の手には届かなくて、だけどいまこの瞬間だけは、こどもみたいなこの人と肩を並べても違和感を感じることがなくて嬉しい。
「誠梨の匂いって落ち着くね。あたし好き」
こてん、と俺の右肩に頭を乗せてくる。
肩下まで伸びたアッシュベージュのサラサラの髪からふわっと香る甘い匂い。
「……誠梨、だからだよ」
それだけ言って少しすると、また寝息が聞こえてくる。
なにが俺だからなのかわからない。
俺だからこんな姿を見せられる?
俺相手だから、こんな夜遅くに呼び出すことができる?
そのあとにどんな言葉が続くにせよ、すごく都合がいいということは自分でもよくわかっている。
だけど毎回こうして来てしまうのは、俺が舞のことを好きだからなんだと思う。