「……来たよ」


真夏日に比べると陽が落ちるのが早くなったほうだけれど、夜でもまだ少し蒸し暑さが残っている。


むっとした空気。


Tシャツの背中の部分は、汗を吸ったせいか気持ち悪い。


場所なんて聞かなくてもわかるし、この人も俺に居場所を伝えずに電話を切った。


呼び出されることは、今日がはじめてのことじゃないから。


運転免許を持っていない俺は、自転車をひたすら漕ぐことしかできないけれど、普通の人だったら15分はかかるところを5分で着くのは褒めてほしいところだ。


「……スゥー……」


両膝を抱えて小さくうずくまっているひとりの女の人。


膝と顔の隙間から、こどもみたいな寝息がかすかに聞こえてくる。


「はぁ」


夜遅くの人通りの少ない河川敷の、ましてや人目につかない橋の下だとはいえ、こんな時間に女の子ひとりで無防備に寝られたらたまったものじゃない。


世の中が物騒なことを、この人は何年も生きてきて知らないのかな。


大きなため息をひとつ吐いて、すぐ隣に腰を下ろす。


「酒くさ……」