どちらからともなくイーゼルの前に座った。

パレットの中で瑞樹から言われた絵具を混ぜていく。

やがて絵具は淡い色へと変化していく。

 気持ちが変化していると言った瑞樹。

最初は岬さんの幸せだけを願っていた瑞樹だったけど笑っている岬さんを見て、

彼の車に乗り込む岬さんを見て、

瑞樹の心は複雑に揺れ始めた。

鮮やかだった色はやがて複数の色が混ざり合って淡い色へと変化していった。

そして瑞樹はそれを愚かだと、最低だと言って自分を責めている。

 パレットの中で混ざった淡いオレンジ色を筆に取ると丁寧に少しずつ木組みの建物にのせていく。

鉛筆だけで描かれていた木組みの建物が淡いオレンジ色に染まり徐々に目覚める。

「ねぇ瑞樹」

「ん?」

わたしはパレットを床に置くとオレンジ色を作るのに使った絵具を手に取った。

「わたしはこのオレンジ色も、この3色が混ざって変化した淡いオレンジ色も、どっちもいい色だって思うよ。

瑞樹は気持ちが変わった自分を責めるけど、そんなのオレンジ色に他の色を混ぜて淡いオレンジ色を作ったのと一緒だよ。

いろんなことが混ざり合って新しい感情が生まれただけ。それは愚かなことでも最低なことでもないよ」

「真琴は僕を元気にするのが上手みたいだ」

優しい笑みを浮かべる瑞樹。

その笑顔の奥に広がる悲しみの影が薄まることはなかった。