わたしは椅子から立ち上がると瑞樹のところへ行った。

「瑞樹を選ばないなんて馬鹿だよ……岬さん」

窓の外を見る瑞樹の背中におでこを寄せた。

「僕も僕は付き合うには結構いいと思うんだけどね」

瑞樹はおどけてそう言って笑うけどわたしは笑えない。

「結構じゃないよ!いっぱい、凄く、たくさん、信じられないくらい…瑞樹はいいよ、いいに決まってるっ…」

もっともっと言いたいのに声が震えて言えない。

「真琴、泣いてくれてるの?」

「だって……悲しい……」

わたしは瑞樹の背中に突っ伏すように両手を置いて顔をうずめた。

瑞樹は少しするとゆっくりと話し始めた。

「僕は岬から別れを告げられた日に事故で死んだんだ。

あれは完全に僕の不注意だった。

工事現場に誤って入って行って、未完成の橋から落ちたんだ。

僕はここで死んだら岬は僕の死に責任を感じてしまうと思って必死に生きようとした。

でも……駄目だった。

ところがどういう訳か気が付くと僕はまだこの世界に居て、やっぱり岬のことを最初に思ったんだ」

 橋から落ちたのは会ってすぐの頃に聞いた。

あの時のわたしにとってそれは瑞樹が死んだ理由でしかなかった。

でも今は違う。

その時の瑞樹の姿が頭に浮かぶ。

そして想像する。

橋の上から落ちた瞬間のこと。

水に飲み込まれていく感覚。

息ができない苦しさ……死んでいく恐怖。

そんな恐ろしいことが瑞樹の身に起きたことを今は悲しく思う。

神経が張り裂けそうになる。

大声で叫びたくなる。

 話は途切れ、そしてまた始まる。