ちひろが出掛ける準備をしに部屋に行くとわたしは夏君のことを考えていた。

自分の立場というものを知りながら後継ぎになる為にここに来た夏君。

絶対に歓迎されない場所に自分から飛び込む勇気が中学2年生の男の子にどうしてあっただろう。

わたしはますます夏君がどんな人なのか気になった。

 エプロンのポケットから昨日夏君からもらったメモを取り出した。

そこには綺麗な文字が並んでいる。

跳ねるところは跳ねて止めるところは止める。

意思の強そうなしっかりとした字。

たしかちひろが夏君とわたしは同じ歳だと言っていた。

同じ歳なのに彼が背負っているものはわたしとはあまりに違う。

そしてちひろもまた大きな覚悟を背負って生きていた。

いつもわたしにくっついてきて年上だけど弟みたいなちひろ。

怖がりで弱虫だと思っていたちひろが、大きな目標と強い思いを内に秘めていたことを知って自分が情けなく思えた。

怖がりで弱虫なのはわたしの方なんだ。