今年の最高気温を更新したことも涼しい家の中では感じることなく、

ニュースを見ながら昼ごはんのメニューを考えているとちひろが 来た。

 夏休みに入ってからちひろは毎日のように朝早く起きては出掛けて行き夕方まで帰ってこない。

どこに行っているのか気にはなるけど聞いたことはなかった。

 昼食の準備を始めるとちひろはカウンターに座り眠そうな顔で菓子パンにかじりつく。

「ちひろ?お昼ご飯無しってことは今日も出掛けるの?」

「うん、休みの日はほぼ毎日両親が経営するレストランとかホテルで働いてるんだ」

「えっそうなの?」

初めて聞く話に手が止まった。

「いずれ自分が経営することになった時に必ず役に立つ経験だから。

母親が違う弟も一緒に働いてるんだよ。

僕は負ける訳にいかないんだ。

両親は優秀な人間を後継ぎにするって言ってるから、

僕が選ばれない可能性だって十分にある」

「その……お母さんが違う弟さんが後継ぎになることもあり得るってこと?」

「そう。彼は中2の冬にこの家に来たんだ。

お母さんは知っていたみたいだけど僕達兄弟はその時初めて彼の存在を知ったの。

僕はお母さんの気持ちを思うと複雑で……だって、お父さんが他の女の人との間に作った子供がこの家に住むことになって、

しかも後継ぎになりたいって言うんだもん。

それでもお母さんはそれを受け入れたんだ。

彼を受け入れようと決めたお母さんの気持ちはわからない。

けど、辛くない筈がない。

だから僕は絶対に彼に負ける訳にはいかないんだよ」

またひとつ、ちひろのことを知った。