瑞樹のスマホのタイマーが鳴る。

「今日の僕の時間は後20分だけど、

泣いている女の子をこのまま帰してしまうのは僕のポリシーに反するから何か話をしようかな」

瑞樹は窓の前に行くと外を眺めながら話し始めた。

「真琴は岬と僕が一緒に演奏することが叶わなくなってしまったことを悲しんでくれたね。

でも僕と岬はすでに一緒に演奏することは叶わなくなっていたんだ」

「えっ、どうして?」

「駄目だったんだ。相乗効果が生まれないって言えばいいのかな。

お互いがお互いを立てようとしてしまってあたかも演奏が大人しく平坦になってしまう。

簡単に言うとつまらないものになってしまうんだ。

じゃあ立てることを辞めたらいいって話になるんだけどそんな単純なことじゃない。

理由はそれだけではないから。

それに初めて合わせた時点でお互いの演奏を引き上げ合うことができる相手もいる。

そんな相手を見つけることの方が簡単だったりもするんだ」

「そうなんだ…」

「だから悲しむ必要はないよ。それと真琴は随分褒めてくれたけどあのコンクールで僕は1位ではない」

「えっ?」

「驚いてくれて嬉しいよ」

瑞樹は振り返るとにっこりと笑った。