また長い沈黙が続く。

 犬はさっき飼い主に注意されてから大人しくなった。

バイクのエンジンをかけるのは諦めたようだ。

夜なのにセミのジジという短い鳴き声が聞こえた。

 瑞樹の口からが悲しい言葉が零れる。

「もしかしたら岬にとって僕が死んだことは……ひとつの季節が終わったくらいのことなのかもしれない」

「そんな…」

後に続く言葉が見当たらない。

『そんなことないよ』はとりあえず言ってるだけになって、

『そんなこと言わないでよ』はわたしの希望。

今、瑞樹に必要なのは───。

 あの投稿サイトで見つけた“なつき”の言葉が浮かんだ。

なつきの言葉はこれまで何度もわたしの心を温めてくれた。

そしてわたしに教えてくれた。

こんな時、一番に必要なことは話を聞いて、一緒に考えることだと。

「瑞樹、一緒に考えようよ、これからどうするか」

 瑞樹はようやくわたしに顔を向けると笑みを浮かべる。

「真琴はそんな風に言ってくれるんだね。

本当に、心強いよ」

「だから、何でも話して欲しいんだ」

「わかったよ真琴。僕は真琴の厚意を断れそうにないよ。

僕のタイミングで少しずついろんなことを真琴、君に話していくよ。

それは少しわがままなことかな?」

「瑞樹のタイミングで話すこと?」

「うん」

「ぜ~んぜん」

「それは良かった。だけど、たくさんのことを話していくうちに僕のかっこ悪さが露呈して、

真琴に嫌われてしまうかもしれない」

「嫌いにならないよ、絶対に」

「だといいんだけど」

瑞樹はくすりと笑った。


 夜、ベッドに入るとなつきの詩を見ていた。

【君を救いたいのに
君に代わることも
その苦しみを半分もらうこともできない
だけど教えて、君が抱えているものを
聞かせて欲しいんだ
一緒に考えたいから】
 
なつきがどんな人なのか想像してもぼんやりと男の人のシルエットが現れるだけ。

想像の世界はいつだって朧げだ。

それでもこの世界のどこかになつきは存在していて、

わたしは今日もなつきに恋をしている。