「いいか渡辺、親切心で何もするな。

何不自由なく育ったお嬢様にはこれくらいの経験させてやれ。

苦労も知らずに大人になったら可哀そうだろ?」

「おう、そういうことなら!」

「あの、わたしお嬢様じゃ…」

わたしの言葉は見事にスルーされ、いつの間にか別の話に切り替わっていた。

「帰りどこに寄って行く?」

そう言うと(つむぎ)さんに耳打ちをする綾音さん。

話を聞いて紬さんは首を横に振るけれど綾音さんは“やれ”と言うように顎を突き上げる。

すると紬さんは仕方がなさそうに理斗君に声を掛けた。

「ねぇ理斗?帰りうちらとどっか寄っていかない?」

どうやら理斗君を誘うよう指示されたらしい。

理斗君はカバンに教科書を入れながら「悪いけど俺パス」と愛想なく断った。

紬さんの口が“ほら”と動くのを見ないふりして綾音さんは「さぁ理斗に振られたし帰るとすっか」

と声高々に話すと4人は教室を出て行った。

 複数のことが重なってわたしはお嬢様だと誤解されている。

何度も訂正しようとしたけれど今みたいにわたしの言葉はいつも遮られた。