───始まる。

 あまりの緊張感に呼吸が止まるけれどそんなものは演奏が始まった瞬間に消えた。

滑らかで力強い演奏が会場に響き渡る。

ピアノのことは正直わからない、けれど彼女の演奏を聴いて心が高揚した。

 演奏が終わり、ステージに入ってきた時と同じように一礼をすると彼女はバックヤードへと戻って行った。

 次の出場者もまた次も、わたしにとってはみんな素晴らしい演奏に聴こえた。

そんな中、いろんなタイプの演奏者が居ることを知った。

緊張がこちらにまで伝わってくる人にまるで誰も居ないところで弾いているかのようにリラックスしている人。

その曲を確実に正確に演奏しようという思いが伝わってくる人に聴かせたいという思いが強い人。

そしてどのタイプの演奏者もそれぞれ魅力的だった。