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 岬さんのコンクールに行く約束をしている今日は、

待ち合わせ場所の会場に5分前に到着すると入り口の前ですでに瑞樹が待っていた。

「ごめんね瑞樹、いつも待たせて」

「僕は待たせるのは得意じゃないから」

瑞樹は笑顔を見せると中に入って行く。

わたしはその後を付いて行った。

 中は広く、案内を見ながらコンクール会場へと向かう。

「ここだね」

「うん」

重厚な扉の前で足を止めると、向こうからはピアノの演奏が聞こえてくる。

「この演奏が終わったら中に入ろう」

「うん、何か緊張感あるね。

全国から凄い人が集まってるんでしょ?

このコンクールに出場できるだけでもかなりのことなんだよね?」

「そうだね」

 演奏が終わり、会場に入るとわたし達は左端の席に座り次の演奏を待った。

 会場には心地いいとは言えない空気が漂っている。

風姿は穏やかなのに神経は鋭く尖らせている人、

心配そうな表情を浮かべる人、そわそわしている人。

出場者の家族であろう人達のそれぞれが纏う雰囲気がこの場の空気を作っている。

張り詰めた静けさがあり、その静けさが却って騒がしさにも感じた。

 出場番号と出場者の名前がアナウンスされるとステージには紺色のドレスを着た女の子が現れた。

演奏する曲がアナウンスされる中、ステージの真ん中で足を止め華麗に一礼すると颯爽とピアノに向かう彼女。

それは一見すると場慣れしているようにも見えるけど、もの凄く緊張しているようにも見えた。

 椅子に座ると彼女は上を見る。

正面を見てはまた上を見るを何度か繰り返した後、その左手は滑らかにその右手も追いかけるように鍵盤の上にセットされた。