瑞樹の言葉に心が青ざめた。

知らなかった……瑞樹がそんな恐怖の中に居たことを。

 誰の目にも自分の姿が映らない───そんな世界で存在することがどれ程恐ろしくてどれ程孤独なのか、想像もつかない。

 瑞樹が死んだのは2ヵ月前、わたしと出会うまでの間ずっと瑞樹は1人だった。

それはわたし達が知る1人とは全く違う1人。

 それでも瑞樹は自分の姿が見える人を恐怖と孤独に震えながら探し続けていた。

見つかる確信もないままで。

「それなのにわたし、初めて会った時瑞樹を怖がってしまった……」

「でも今、真琴はこうして僕の傍に居てくれる」

瑞樹はにっこりとほほ笑む。

わたしは初めてその顔をしっかりと見つめた。

「瑞樹、わたしが一緒だと怖くならない?」

「真琴の前では僕は存在してるから。

真琴、僕は君に怖がられてはしまったけど、

君に会えた時、本当に本当に嬉しかったんだよ」

 瑞樹に初めて会ったあの日に戻りたいと思った。

そして次は怖がらずに瑞樹の話を聞きたいと。

でも、そんなことは叶いっこないから。

「瑞樹、コンクール一緒に行こう、わたしも岬さんのピアノ演奏聴いてみたいから」

今から瑞樹の為にできることをやろう。

「こんな時、お礼に何かおごることができたらいいのだけど」

 わたしは初めて瑞樹の隣に座った。

もう瑞樹を怖いと思わない。

「お礼なんて必要ないよ。だってわたしコンクールに行くの楽しみだもん」

瑞樹は笑みを浮かべるとまた、岬さんを愛おしくも切ない目で見つめた。