公園に行くと瑞樹はいつものベンチではなく入り口でわたしを待っていた。

「真琴、今日はちょっと付き合って欲しいところがあるんだ」

「うん、わかった」

 瑞樹の後ろを付いて行き、暫く歩くと小さな公園に辿り着く。

住宅街の一角にある閑散とした公園には木が数本と小さな砂場、それと木製ベンチが2台あるだけだった。

「あそこにピアノ教室があるんだけど」

そう言って瑞樹はベンチに座る。

わたしは隣に立つと瑞樹が指差す先に目線を向けた。

 一見普通の家のようにも見えるそこは自宅兼ピアノ教室のようでグランドピアノの形をした看板には『Haradaピアノ教室』と書いてある。

「あっ」

瑞樹がここに来た理由はすぐにわかった。

窓ガラスの向こうにはピアノを弾く中村岬さんの姿が見える。

「岬には大切なコンクールが控えているんだ」

 いつも静かな瑞樹の声が今日は更に静かで優しい。

そしてその目は紛れもなく好きな人を見つめる目だった。