思わず顔を上げるとちひろが「やっと真琴の顔が見れた!」と嬉しそうにわたしの腕に手を絡めると頭を肩に寄せる。

「ねぇ真琴、来月からうちでバイトしない?夏休み中だけでも。

真琴料理できるでしょ?主に食事の用意と掃除。

1日8千円でどう?」

「8千円!!でも、ちひろの家にはお手伝いさんが居るよね?」

思わず大きな声が出た。

どんなに大変かわからないけど1日8千円は凄過ぎる。

「うん、母親の妹がうちのお手伝いさんやっているんだけど夏休み欲しいって毎年言っていて、

だからちょうどいいかなって」

かなり魅力的な話だけど瑞樹に相談する必要があった。

「ちひろ、悪いけど明日まで返事待ってもらえるかな?」

「もちろんだよ」

 今までちひろもわたしに家族の話をほとんどしなかった。

瑞樹のことも隠している。

きっと知られたくない理由があるのだと思う。

わたしがアルバイトをしたら知られたくないことを知られてしまうかもしれないのに。

それにわたしも……。

白亜の豪邸でアルバイトができるなんて夢のようだけど、

そのうちちひろから「真琴の家にも行ってみたい」などと言われそうで怖い。

とはいえ1日8千円。

そんなにもらえたら生活には困らないし、おじさんから借りたお金だって少しは返せる。

だから今は余計な心配をしている場合ではない。

 家に帰ると玄関に厚みのある封筒が落ちていた。

それは利幸おじさんからのもので、中には手紙と20万円が入っていた。