わたしはまだカバンにグミが入っていることを思い出した。

「あっ!わたしも澪君に渡したいものがあるんだ。

はい、グミ」

理斗君は「じゃあもらっとく」そう言ってグミを受け取ると校門に向かって歩いて行った。

 わたしはもう一度お礼を言った。

「ありがとう理斗君!大切に使うね!」

背中を向けたままグミの袋を頭の上でゆらゆらさせる理斗君に顔がほころぶ。

 わたしは手首に付けたヘアゴムを見た。

綾音さん達から文句を言われてもみんな気が付かないふりをした。

入学してすぐの頃は「大丈夫?」と声を掛けてくれた人も居たけど「大丈夫」と答えるしかなかった。

相手は安心した顔を見せた。

わたしは何も変わらなかった。

理斗君はわたしの為にこのヘアゴムを選んで買ってきてくれた。

わたしの為に足を使ってくれた。

時間を使ってくれた。

理斗君の優しさが胸に染み込んでいく。

このヘアゴムはわたしの宝物になった。