─落花流水─キミの片隅より

 昼休みになり、お弁当を食べるのに邪魔になる髪の毛を結ぶと後ろの方から文句が聞こえてきた。

綾音さん達だ。

いつも4人は後ろの窓際を占領している。

綾音さんはロッカーの上に座り他の3人はその近くの席を適当に動かして座る。

昼休みが終わった後、3人が使った机と椅子はそのままで、

教室に戻ってきた席の主達が元通りにするのが当たり前になっていた。

「あの紺色のゴムダサくない?」

「あれじゃね?弁当のふたが開かないように付けるゴム髪につけてんじゃね?」

「はははウケる綾音!」

それは直接的ではないけれどわたしに聞こえる声で言っている。

こんなのは何度も経験しているけれど、その度にわたしはどうしていいかわからなくなる。

教室から出たいけどそんなことをしたら笑いが起こるだろうし、しかも戻って来辛くなる。

今、髪の毛を結んでいるこのゴムを取るのも同じこと。

聞こえていないふりをしてこの時間が過ぎるのを待つしかない。

 お弁当を食べ終わると結んでいたゴムを外しカバンにしまった。

するとまた後ろから声が聞こえてきた。

今日は最悪な日だ。

二度も標的にされるなんて。

「結んだ跡ついてるし、綾音あいつにドライヤー貸してあげたら?」

「アホか腐るわ!」

「腐りはしないでしょ?」

「腐敗するわ!」

「あははは同じ意味だし!」

酷いこと言われてるなわたし……。

そんなことを思っていると藤堂君達に囲まれパンを食べていた理斗君が振り返った。

 理斗君の目線はわたしを通り越し綾音さん達へと向かう。

「何、理斗?」

綾音さんの声が聞こえてくる。

理斗君は「下らねぇこと言ってんなよ」と席を立った。

「どこ行くんだよ理斗?」

藤堂君の質問に「トイレ」と答えると理斗君は教室を出て行った。