理斗君の言葉を聞いて「あっ」と声が出た。

今日、こうして理斗君と話せているのは勇気を出してここに来たからだ。

「見つけたかも」そう話すわたしに透かさず「俺とか言うなよ」と言葉をが返ってきたから困った。

「えっ…」

「いや、図星かよ。そんなつもりで言った訳じゃねぇよ」

 理斗君はフェンスに両手を掛けると遠くを見る。

ふと、その横顔に寂寞(せきばく)の色が見えた。

静かでひっそりとした凪のような寂しさがその背中を覆っている。

そしてそれは、とても大きく重いものに感じる。

「理斗君は……わたしよりも辛そう……」

言ってすぐに謝るけれど理斗君は遠くを見つめたまま「どうしてそう思うの?」と聞いてくる。

わたしは理斗君と同じ遠くを見て答えた。

「それはその……背中が重そうだなって……これまでにいろんなことがあったみたいに見える。

普通この歳では経験しないようなこと……」

「そっか」

「理斗君はみんなのこと友達だと思ってないの?

理斗君の周りにはいつも人が居て男の子からも女の子からも人気があるけど本当はそんなの全部いらないみたいに見える。

……ごめん、今まで話したこともなかったのに知ったようなこと」

「いいよ、結構当たってるから。それよりお前、よくここに来たな。その性格だと相当勇気いっただろ」

「えっ…」

「そろそろここ出るぞ」

「あっ、はい」

 屋上を出ると理斗君はポケットから出した鍵でドアを施錠した。

「ここの鍵?どうして理斗君が?」

「内緒な」

理斗君はポケットに鍵をしまうと歩いて行った。

「ありがとう話聞いてくれて」

わたしは理斗君の背中に向かって声を掛けたけど、返事はなかった。

 理斗君の背中を見つめながらさっきの言葉を思い出した。

───お前、よくここに来たな。

その性格だと相当勇気いっただろ。

わたしの心を両手で(すく)い上げて撫でてくれるような、

そんな優しさを感じた。

怖い人だと思っていたけど全然違った。